昨日、あんな事があってから牧くんと顔を合わせづらかった私は、朝早くから起きてテーブルに朝食を並べると、牧くんが仕事に行くまで自分の部屋で布団にくるまっていた。だって、あんな…あんな変態みたいな事されて、私は感じてしまって、あんなに乱れてしまったんだ。恥ずかしくて牧くんの顔なんか見れるわけない。と言うか牧くんは何考えてるんだろう。牧くんは私に「今日からお前は俺の下僕だ」なんて言っていたけど、この先、どうしたらいいのかわからない私は、牧くんが玄関から出る音を確認すると、そそくさと部屋から出てリビングへ向かう。リビングに着くと机の上にメモが置いてあって、手に取ってみると「昨日は無理させてすまない。今日はゆっくり休むといい」と、牧くんの字で書かれていた。あんな事して、強引にエッチしたくせに、こんなに優しい事するんだ。なんて思いながら、私はキッチンに移動してシンクに置かれた食器を洗っていく。牧くん、全部食べてくれたんだ…。部屋に閉じ籠って失礼な事しちゃったかな。なんて思う反面、私は牧くんがまだ怖かった。縛られた手首が少し赤くなっている気がして、私は水道水を手首に当てる。少し生ぬるいような水道水が私の手首に当たって流れているのをしばらくじーっと見ながら、この先どうして行けばいいのかわからない私は昨日のことを無かったことにできないか必死に考えていった。



















「ただいま」




深夜の1時過ぎ、ガチャリとリビングのドアが開く音と共に牧くんが帰ってきて、私はテーブルにご飯を並べながら『おかえりなさい』といつもみたいに牧くんに向かって笑う。牧くんは驚いたような顔をして「あぁ...遅くなる連絡をしなくてすまない」なんて言いながらネクタイを緩めた。私が昼間考えに考えて出た作戦は、昨日の出来事をまるで無かったことのように普通に振る舞うことだった。『いいんだよ。私、牧くんの家政婦だから』なんて言って牧くんの前を通ってキッチンに向かう途中、牧くんに腕を掴まれる。瞬間、昨日のことを思い出すみたいにビクッと身体が揺れてしまった。怖い。と言う言葉が私の思考を停止させていって、緊張のせいで私の身体がどんどん強張っていくのが自分でもわかる。だめ、平然とするのよ私。意識しちゃだめ。牧くんは、昨日、入るな。って言った部屋を見られて怒っていただけ。そうに、決まってる。そうじゃなきゃおかしい。優しい牧くんは、あんな事しない。大丈夫。なんて自分で言い聞かせるように、停止した思考を働かせるみたいに、無理やりグルグル考えていく。それと同時に深呼吸を一度して、私は牧くんを見つめた。




『ま、牧くん...ご飯、冷めちゃうよ?着替えてくれば?』


「...身体は平気か?」


『え?』


「昨日は、少し無茶をしたからな。手首も、少し赤くなってるようだし...すまない」


『い、いよ...忘れよう...』


「忘れ、られるのか?」


『...うん...大丈夫。忘れる...』



牧くんから視線を外して言うと、牧くんが小さくため息を吐いたような声が聞こえた。だけど、ほら、牧くんは、怖くない。大丈夫。こんなにも、優しいじゃない。なんて私は少しホッとして「お味噌汁、入れるね」と言って牧くんの手から離れようとする。だけど、私の腕を掴む牧くんの手は離れる事はなくて、牧くんが私の耳元によってきて小さく笑うのが聞こえた。




「なら、忘れられないようにしないとな」




そう耳元で囁かれた牧くんの言葉に、ゾクッと私の背中に何かが走っていく。怖い。だけどそれだけじゃない。私の身体が、まるで期待してるみたいにどんどん熱くなっていって、だけどそれを誤魔化すみたいに私は『いや!』なんて言って牧くんの手を振り解こうと腕を振る。だけどそんなの意味なくて、牧くんが私を床にドサっと押し倒すと、私に覆いかぶさってきて私の顔横に牧くんの手が置かれた。「暫く休みを取ったんだ。期間は、2週間....」ネクタイを片手で解きながら牧くんがそう言って、私の目を隠すみたいにネクタイを私の目に当てる。「頭を少し上げろ」って言われた声に従うみたいに、私が頭を少し上げると、シュルシュルって音がして、私の目を隠してるネクタイが結ばれてるんだってわかった。そのすぐ後に牧くんの吐息が近づいてきたかと思ったら「花子が下僕の自覚を持つまで、頭にも、身体にも...たっぷり教え込んでやるからな」なんて囁いて小さく笑う。私はその言葉を聞いた途端、目に当てられたネクタイが私の涙が滲んでいって、牧くんは優しいなんて私の馬鹿みたいな考えが打ち砕かれるみたいに、胸が苦しくなっていった。だけど、それと同時に牧くんが私の耳を舐め上げていって、私の身体は昨日のことを思い出すみたいにどんどん熱くなっていく。





『いっ、や...!』


「今日は自分から、おねだりするんだ」


『そ、そんなの...っ!』




するわけない。なんて最後までいう前に牧くんが私の唇を塞いで、牧くんの舌が私の唇をなぞった。瞬間に私の洋服の隙間から牧くんの手が入り込んで、牧くんの指が私のお腹に優しく触れていく。徐々に胸に上がっていった牧くんの手が、私の胸を包んで、下着越しなのに牧くんの熱い手の熱がじわりと私の胸に伝っていくみたいに、私の心臓がどんどん早くなっていく。目隠しされているからなのか、牧くんがどこを触ってくるのか予想ができなくて、昨日よりも身体が熱くなっているみたいだった。「舌を出せ」なんて唇が離れた牧くんの声が不意に聞こえて、私は拒否するみたいに首を小さく左右に振る。だけど、耳元で聞こえた牧くんの「自分の立場がまだわかってないのか?」なんていつも以上に低い声に私は視界が既に見えないのに、ギュッと目を強く瞑った。諦めたように出した私の舌を、牧くんの熱い舌が絡めとっていって、それと同時に下着をずらされて私の胸の突起が牧くんの手で摘まれる。私は塞がれた口の隙間から甘い声を出して、なんだか昨日よりも感じてるみたいだった。






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