そんな事が3日位続いた朝、私は身体に走っていく寒気とだるさでぶるっと身体を震わせた。節々に走っていく痛みで私は熱を出している事を理解する。どうしよう、朝ごはん、作らなきゃ…。そう思うのに、身体がだるくて上手く動かない。だけど、お給料を貰っているんだ。頑張らないと、なんて無理やりベッドから身体を引きずりおろして、キッチンに向かおうと足を進める。ガンガン痛む頭とふらふらして言うことを聞かない私の足のせいで、壁伝いにしか歩けない。壁に手を当ててキッチンへ向かうと、すでに起きていた牧くんがリビングで珈琲を飲んでいる姿が見えた。





「おはよう」


『お、はよう…ございます』


「おい…花子、なんだか顔色が良くないぞ」





正直身体がだるいのは連日牧くんが無茶をしているからだと思ってる私は、誰のせいよ。なんて心の中で悪態をつくのに、私の思考を止めるみたいにガンガン痛む頭が余計に痛んだ気がした。そのうち立てないくらいの目眩に私がぺたりとその場に座り込むと、牧くんが私の近くに寄ってきて「大丈夫か?」なんてすごい焦ったような顔をして私を見つめる。牧くんは私の事…下僕、なんて言ったり、あんなに酷いことするくせに、なんでそんなに優しいの。本当に、心配してくれてるみたい。なんて白くなっていく視界の中で考えて、私は意識を手放した。

















『…ん…』


「起きたか?」





おでこにヒヤッと冷たい何かが当たった感覚がして瞼を上げると、私はベッドの中にいた。目の前には牧くんの顔があって、私は思わずドキッと胸が熱くなる。私、どうしたんだっけ?朝、起きて、頭痛くて…考えてる私の思考を読み取ったみたいに、牧くんが「40度あったぞ」なんて言って眉を寄せた。





『え?』


「熱が、40度あったんだよ」


『そん、なに…?気が付かなかった…』


「なんで体調悪いって言わないんだ…寝といて良かったのに」


『朝ご飯、作れなくてごめんなさい…』


「いい、謝るな。そんなことより、気分はどうだ?大丈夫か?」





牧くんが言いながら私の首に手を当てて「少しは下がったか…」なんて少しホッとしたような顔をする。私はいつもの怖い牧くんじゃなくて、高校生の時の牧くんに戻ったみたいで、心臓がバクバクと早くなっていく。それと同時に顔も熱くなっていって、私は全部、熱のせいだ。なんて自分に言い聞かせながら下唇をギュッと噛んだ。






「花子、おかゆ食べれそうか?」


『え?な、なんで…?』


「おかゆ作ったんだ。少しでも食べたほうがいい」


『え?牧くんが、作ったの?』


「失礼だな。意外と料理上手いんだぞ」


『あはは、それじゃ…いただこうかな…』






言いながら牧くんから目を泳がせた私の首から、牧くんの手が離れていって「ちょっと待ってろ」なんて牧くんの声がして、牧くんが部屋からいなくなる。しばらくしておかゆの入った小鍋と取り皿が乗ったおぼんを持ちながら牧くんが戻ってくると「無理そうだったら、残していいからな」なんて困ったように笑って、取り皿におかゆをよそってくれた。『ありがとう』と言って受け取ろうとした私に牧くんが「待て」なんて言って、おかゆをスプーンですくって、あーんするみたいに私にスプーンを向けてくる。私は恥ずかしくて『自分で食べれるよ!』と言って両手を顔の前で振って見せると、牧くんは意地悪そうに小さく笑った。






……逆らうつもりか?
(…え?そ、そんなこと言われても… )




「ほら、口を開けろ」


『恥ずかしいよ、牧くん…』


「口移しと、どっちが良いんだ?」


『スプーンで食べます』


「いい子だな」




私が向けられたスプーンごとおかゆを口に含むと、牧くんは満足そうに笑って「早く治せよ」なんて言って私の頭をポンポンっと撫でていく。牧くんのこの行動のせいで、私は牧くんが怖いのか優しいのかよくわからなくなってしまった。どっちが本当の、牧くんなの。考えてもわからないのと、自分の胸が熱くなっていくのを誤魔化すみたいに、私は牧くんが食べさせてくれるおかゆを口に運んでいった。



(牧くんは私の事...下僕、としか思ってないんでしょ?)








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