「いい子だな...そのまま両手を上げろ」




掴まれた手首から牧くんの手が離れて、私は従うみたいに腕を上げる。それと同時に先程牧くんが持っていた手枷が私の手につけられて、私は鎖を鳴らすみたいにガシャっと手を動かした。なんで、こんな事するの牧くん。怖い。なんて思ってる私に、牧くんは笑って「安心しろ、痛い事はしない」と言って私の頬に手を寄せる。だけど私は牧くんにそんなこと言われても全然安心できなくて、助けを求めるように牧くんを見つめて、首を左右に動かす。




『そ、の...仕事は...』



「あぁ...今日は休んだ」




「ペットが粗相したと言ってな」なんて言った牧くんは酷く楽しそうに笑っていて、私は動くことが出来なかった。怖かった。私が知っている牧くんは、頼り甲斐があって、だけどどこか抜けていて、少しお茶目で、自分も疲れてるのに私の体調の心配なんかもしてくれるくらい優しく笑う人だった。でも、目の前の牧くんは私の知らない人に見えて、今まで築いてきた私の中の牧くんのイメージが、ガラガラッと音を立てて崩れていくのが聞こえる。それと同時に私の視界がじわりと滲んで、私の目尻からポロポロと熱い滴が流れていった。





「俺が、怖いか?」



『う、ん...』




「そうか...今は...それでいい」





そう言った牧くんが私の口を塞いで、私は声も出せないまま、牧くんの口付けを受け入れるように目を瞑る。震える身体を牧くんが押さえつけるみたいに、牧くんの身体が私に密着して、牧くんの舌で舐められている唇から熱を帯びていくみたいにどんどん身体が熱くなった。強引なのにどこか優しく触れる牧くんの手が、私の首筋に当たって、牧くんの指が私の首筋をなぞっていく。ピクリと反応した私の口が少し開いて、それを待ってたみたいに牧くんの舌が私の口内に入れられる。そのまま絡めとられた舌が、厭らしい水音を立てて、ちゅっと牧くんの唇で吸い取られていく。





『や、なんでこんな...っ』


「契約書にちゃんと書いてあっただろ?場合によっては下僕に降格する。と」



『そ、そんな...!』



「ちゃんと読まないでサインした、田中も悪いんじゃないか?いや...」




「花子、か」と私の名前を呼びながら、牧くんが私の耳をペロリと舐め上げてきて、私は思わず身震いをした。そんなの聞いてない、そんな文章読んでない、知らない。頭の中ではそう思うのに、きちんと契約書を読んでいなかった私も悪い。私は反省なんてしたってしょうがないのに、反省するみたいにぎゅっと目を強く瞑る。そんな私の事なんか気にもせずに、牧くんは耳元で「いいか花子。今日からお前は俺の下僕だ」と笑みの含んだ声でそう囁いた。





『や、やめて...っ!』



「下僕が主人にそんな口聞いていいと思ってるのか?」



『やっ...あっ!』



言いながら牧くんが私の耳を舐め上げて、私はビクッと身体を揺らす。何度か牧くんが私の耳を舐め上げると、牧くんの手が私の首から下がっていって、私のシャツの隙間に手を入れられる。牧くんの指が私のくびれをなぞって、徐々に胸の方へ移動していくと私は『いや』と抵抗するのに、私の言葉なんか牧くんは聞いてないみたいに下着ごと私の胸を包んだ。







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