仙道が私に「好き」って言ってから6日間、私は仙道の前に姿を現さないように必死で学校生活を送っていた。仙道が言う好きって言葉は、私の好きって意味とは違う気がして、廊下で仙道が誰かと話しているのを見かけたら、別のルートで目的地に向かうくらいに仙道のことを避け続けていた。そして仙道に好きと言われてからの6日間。つまり金曜日の今日まで、別に仙道からはなんのアクションも起きないまま、授業終了のチャイムとともにドッと疲れるような1週間が終わりを告げていく。それと同時に、ため息のような、ほっとした安堵のような息が私の口から漏れ出る。なに、してんだろ私。1人で意識して馬鹿みたい。なんて思うのに、弱虫な私は仙道に会う勇気すらないまま、学校を後にした。








『もー...』







学校を後にしたはずだったのに、廊下で担任に捕まった私は「この資料運んどいて」って渡された大量の本を抱え込んだ。どこにですか?なんて聞くと多目的準備室って言われてドキッとしたけど、もう放課後で部活の時間なんだ。仙道が居るはずない。そう思って私は渋々多目的準備室へと足を進める。ガラリと器用に足で多目的準備室の扉を開けると、埃っぽい中に微かに仙道の香りを感じた気がした。仙道がさっきまでいたのかな。なんて思いながらドサっと大量の本を開いたスペースに置いてふーッと一息つくように手の甲でおでこを拭いて、それと同時に仙道が寝てるであろう場所に視線を向ける。視線を向けた先に見えたツンツンした毛先が、仙道がそこに居るってことを告げていた。あ、仙道居たんだ。て、言うかまだ寝てる?なんて思いながら仙道の居る方向へと足を進めていく。仙道、起こしたらどんな顔するな。いつもみたいに笑うかな。それとも、驚くかな。この1週間、自分で仙道を避けてたくせに気になって、仙道の好きと言われた言葉を心の何処かでは期待していた。ただ、私が素直になれないだけで、私が素直になったら良い方向に変わるのかもしれない、なんて思っていたのに、現実はそう上手くは行かないみたいだ。眠っているであろう仙道の顔が見える位置に行った途端見えた光景に私は足をピタリと止めた。何故って仙道の顔の横に、女の子の顔があって、その子もすやすや眠っていたから。その光景を見た瞬間に私の心臓は掴まれたみたいに苦しくなって、喉の奥が焼けるみたいに熱くなる。酸素がうまく吸えなくて、瞬きができないくらい時が止まっている気がした。耐えられなくなった私は多目的準備室から飛び出していて、廊下を走って角を曲がろうとした途端に誰かとぶつかる。それと同時に私は廊下に尻餅をついて小さく『いたっ!』なんて声を漏らした。







「うお、悪ィ...って田中?」





『こ、しの...』





「お前、仙道見なかっ...」






見上げた途端に越野の顔が見えて、越野が最後まで言い終わらずに言葉を途切れさせると「なんつー顔してんだよ」なんて眉を寄せながら私を見つめるもんだから、私は慌てて視線を逸らす。滲んだ視界が余計に滲んだ気がして、涙がこぼれ落ちないようにグッと息を止めた。越野に、気づかれないようにしなきゃ。そう思うのに、私の瞳からこぼれ落ちていく一雫の涙が頬を伝って、それを皮切りに我慢できなくなったみたいに頬を伝う涙が増えてく。「何、泣いてんだよ」なんて頭上から聞こえる越野の声に『うっさい』って返すと、越野は尻餅をついた私の目線に合わせるようにしゃがんだ。






「泣いてる理由くらい聞いてやるよ」




『言わないよ馬鹿』




「俺が知りてーんだよ」




『言わないってば』




「あっそ...当ててやるよ」






「どーせ仙道だろ」って言われた越野の言葉に私の胸はさらに苦しくなって、さっき見た光景が頭に焼き付いたみたいに離れない。私以外にもやっぱり女の子と遊んでたんじゃない。嘘つき、仙道の馬鹿。噂通りの女ったらし。なんて心の中でつく悪態も、余計に私の胸を苦しめるだけで、私の涙は止まらないまま八つ当たりするみたいに越野に向かって『馬鹿』なんて呟いた。












Back