1年の秋、体育祭間近の時期に、越野と話していたら『越野』って声とともに女子が越野に話しかけてきて、俺はなんだか違和感だった。越野は男女共に仲が良い。だけど、田中と呼ばれたそいつは、俺の周りにいる女子とは違うものを感じて、田中は変な奴だと思った。越野と話してた田中は俺の方を見ると『あ、人気者の仙道くんでしょ。私の友達も好きらしいよ。人気者は辛いねー』なんて言って笑ってた。田中はよく怒るやつだけど、よく笑う。たまに1人で百面相してるくせに、俺や越野が話しかけるとケロっとした表情を見せて、悩みなんかないって顔をしていた。人に弱みを見せるのが嫌いな奴なんだって思った。接していくうちに田中は女子の中でも話しやすい奴に変わっていって、帰る時間が一緒になればコンビニに寄ったりして、田中のしょーもない彼氏の話とか、授業中に越野が爆睡して先生に怒られた話とか、俺が赤点とって先生に怒られた話とか、俺のバスケ話とか、俺が遅刻をすれば「また寝坊?」だなんて話すような間柄になった。田中と一緒にいるのは居心地が良くて、なんで彼氏なんているんだよ。なんて思ったこともあった。だけど、恋人になりたいわけじゃなくて、ただ田中といるこの高校生活が続けば良いって思ってたんだ。2年に進級してから間もないあの日、田中から変な発言を聞くまでは。







『私にセックスが気持ちいいって教えて欲しいの!』






「は?」





田中が一生のお願いなんて言って俺に言った言葉に、俺は唖然としたのと同時に聞き間違いなんだと思って咳払いをしてからまた「は?」と繰り返すように口から漏らした。聞き間違いだと思ったのに、田中が『だからセックスを!』なんて同じ台詞を言おうとするもんだから、俺は思わず田中の口を手で塞いで「ちょっと待て」なんて言って眉を寄せる。





「なんでそんな唐突に...」






『仙道ってセックス上手いで有名じゃん!』






「...知らねーよ...」






『俺が出来ることであればって言ったじゃん!今の所仙道にしか、こんな事頼めないの!!』






田中が力拳を作りながら俺にそう言って、俺の口からはため息しか漏れなかった。セックス上手いで有名なんてのも知らないし、俺は女子の中でどんなイメージを作り上げられてるんだ。俺だってまだみんなと同じ16だし、なんなら彼女だって数える程度しかいなかった。なのになんでそんな噂が立つんだ。女だって取っ替え引っ替えなんかしてないし、どちらかと言うと俺は彼女ができたら大事にするタイプ...だと思う...。とかなんとか考えてると、田中が俺に事情説明をして俺はうーん。なんて考える。不感症。と呼ばれるほどマグロなんだろうか。なんて思った俺は田中に「良いけど、俺のこと好きにならない?」と言って眉を寄せる。田中とは友達でいたい。関係を崩したくない。なんて思っている俺は、田中が俺の事を好きになんてなったら、それはそれで面白い。だけど友達には戻れない。そんなの絶対に嫌なんだ。一緒にいると居心地のいい、友達の田中が好きだから。なんて思ってる俺に対して田中は首を左右に振って『ない!絶対にない!』と言って俺を見て眉を寄せる。






「絶対に、なんてあり得ないでしょ」





「ありえる!だって仙道みたいに、女ったらしなナルシスト、絶対に好きにならない!』







言われた言葉になんだかカチンときた俺は「そこまで言うなら一回だけ」なんて言って田中の腕を掴んだ。そこまで言うなら、1度だけ抱いてやろう。本当の俺を知ったらセックスが上手い仙道彰なんてレッテルなくなるに決まってる。田中に現実を教えてあげよう。だなんて思いながら俺は田中の腕を引いたまま、足を早めた。田中も、噂だけでしか俺の事を判断しない奴だったんだ。田中は変な奴だし、他の奴とは違うって思ってたのにな。俺の口から出た小さなため息が、田中の『あ、カバン』って声でかき消されるのと同時に落ち着かない田中の言動が面白くて、なんだかどうでも良くなった。「いいから」なんて続けた俺は焦る田中の行動を少し楽しんで、ラブホテルに向かっていった。













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