『ん...?』






土曜日の夜中、知らない番号からの着信で目を覚ました私は、少し寝ぼけた声で『もしもし?』とスマホを耳に当てると、「寝てた?」なんて声が不意に聞こえた。『誰?』って問いかけると「あ、俺...仙道」なんて聞こえて、寝ぼけてた頭が回転しだす。え、なんで番号知ってるの?あんたSNSのDMでしか連絡取ったことないじゃん。なんて思った私は『なに?』なんて寝起き特有の掠れた声で呟いた。






「越野から番号聞いた」







『...ん...そうなんだ』







確か越野とは去年の体育祭の実行委員で交換したんだっけ。なんて思いながら、私は仙道の返答を待ってるみたいに静かに目蓋をもちあげる。今何時だろ、なんで電話なんかけてきたの?なんて私の思いに気づいたみたいに、仙道が「今田中の家の近くに居てさ、会いたいって思ったんだ」って呟いて、私の頭は高速回転するみたいに動きだす。え?今なんて言った?会いたいって言った?誰が?誰に?なに言ってんの?なんて思った私は『なんかあったの?』なんて仙道らしくない台詞に驚いて問いかけた。







「ホテルから帰る日に田中のこと送っただろ?」








『うん...この前は色々とありがとね』







「あれから俺ずっと、田中のこと考えてたんだ」








『ふーん...え?』






なに言ってんのこいつ?なんて回転し始めた頭がまた思考を停止させるのとともに、仙道とホテルに行った後の2ヶ月間を思い出そうと眉を寄せる。あれ?ホテルに行った後、仙道は私と普通に友達として接してきてたはず。仙道だって変わった様子なんかなかった。だって、女の子の噂だって変わらず絶えなかったし、私とだって普通に話してた。何か変わった様子なんて一個も...なんて思ってた私に、仙道が受話器越しに「田中、俺ともっかいセックスしてよ」って呟いて、私は『もうしないって言ったじゃん』とピシャリと言い放つ。なに言ってんのよこいつ、たまたま身体の相性が良かっただけで、またしたくなったの?ほんと性欲大魔神かよ。なんて思ってると、「花子...させてよ」なんて受話器越しのフィルターを通してるくせになんだか艶っぽい仙道の声に、私は思わずどきっとした。いや、名前を呼ばれて、この前のことを思い出しただけなのかも。






『しないってば!』






「べつに今すぐってわけじゃなくてもいいからさ、ちょっとだけ出てこれないかな?」






「田中に会いたいんだ」なんて仙道らしくない台詞に、私は少し戸惑って『今どこ?』って仙道に問いかける。「田中の家のすぐ下」なんて答えるもんだから、私は思わずガバッと布団から飛び起きた。なにメリーさんみたいに怖いこと言ってんのよ、馬鹿じゃないの?さっき家の近くって言ったくせになんで家の下にいるのよ。なんて驚いて声も出せない私に「充電なくなりそうだから、電話切って待ってるよ」なんて仙道の言葉に『ちょ、まっ...!』と焦る私の返答も聞かないまま、仙道は無理やり通話をブチッと切った。私は眉を寄せながら、スマホの画面を見ると時刻は深夜1:30。なんでこんな時間にこんな所にいんのよ...なんて思いながら、部屋の電気をパチッとつける。近くにあった鏡で髪の毛を少し直した後に、家族が寝静まったであろう家の中を通って、静かに玄関の扉を開いた。






「お、田中」






玄関の扉を開けると、家の門の前に本当に仙道が立っていて、私に気づいたように頭を上げた仙道がそう言ってニコッと笑う。なによ、なんで本当にいんのよ...なんて眉を寄せながら、私は小走りで仙道に駆け寄った。






『お、じゃないよ...どうしたの?こんな夜中に』






「無理やり起こしてごめん、3回くらい電話したんだ」






『え?嘘』






言われてスマホを見ると、確かに通知が残っている。電車が残っているであろう23:50くらいから1時間毎に着信履歴が残っていて、まさか仙道、私が寝てたせいで終電逃したの?なんて勝手に罪悪感が私の中に生まれる。『ごめん、寝てて気付かなくて』と謝る私に、仙道が「むしろ俺、気持ち悪かったかな」なんて言っておでこをポリポリとかく仕草をした。









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