「それに、絶対だめって言わないんだ?」






『やっ...!』





「ねぇ、キスさせて花子」なんて耳に響く仙道の艶めいた声が、私の力を抜いていく。声とともにヌルリと耳に這った仙道の舌がなんだか異常に熱くて、私はゾクリと身体が震えてるのがわかった。仙道はそれに気づいたみたいに吐息まじりに私の耳に舌を這わせ続けて、「花子」って私の名前を呼ぶ。その度に私の身体はビクッと揺れて、なんだかセックスしてるみたいで、私の身体は徐々に熱くなっていった。






「うわー...もうそんな顔してるの?」






『ッ!見ないでよ!』






「ほんと...やばいな」






はぁーってため息をついた仙道が私の手首から手を離して「ごめん」って呟いたと思ったら、仙道は自分の首を手でさすって「今日部活で田中の話になったんだ」って私から顔を逸らす。私は熱くなった身体を落ち着けるみたいに呼吸を整えながら自分の胸に手を当てて『なんで?』って仙道の話に問いかけた。







「田中がB組のやつに告られたって越野から聞いて...付き合ったのかなって思って、さ」







『...え?なにそれ...』






「本当はその話聞くつもりだったんだけど」







「カッコ悪い?」なんて仙道が口を尖らせるもんだから、まるで私を好きみたいじゃない。なんて自惚れながら、私は仙道をそのまま見つめる。なんだか照れ臭そうに、私にチラリと視線を移した仙道が、今まで見たことないような赤ら顔をして私に「付き合ったの?」って質問を投げかけた。なによ、馬鹿なの?これがギャップってやつ?ちょっとドキドキするじゃない。なんて私は眉を寄せて少し口をつぐんだ。







「それとも、もう、キスした?」






『し、してない!してない!てか付き合ってない!』






また近づいてきた仙道の顔に、ストップをかけるみたいに首を左右に振って答えた私に、仙道がフッと笑って「本当に?」って私の顔を覗き込む。なんで確認してくるのよ、近いし、馬鹿なんじゃないの本当に、仙道のタコなんて心の中で悪態をつきながら私は仙道から逃れられないこの状況が恥ずかしくて、目をギュッと瞑った。瞑った瞬間、仙道の笑う声が聞こえて、なんだか私は余計に恥ずかしくなる。






「キスしていいの?」






『だ、だめ!』






「ほんと...勘違いさせるような顔してくるよな、田中って」







聞こえた仙道の声が私の顔から徐々に離れていって、私は安堵したようにほっと胸を撫で下ろす。それと同時に仙道のあははって声が聞こえて、私は、なによ。なんて思って仙道に視線を移すと、仙道は眉を寄せながら「俺が離れたらホッとして、わかりやすすぎ」なんて言ってまたあははって笑った。私はなんだか恥ずかしくて、下唇を噛んで悔しげに仙道を見ながら『うるさい!ばか!』なんて小さく叫んだ。






「はいはい、じゃあ帰ろうかな」






『え?時間的に電車ないよ?』






「今日越野の家に泊まってるんだ。越野からチャリ借りて来たから、越野の家帰るよ」







「意外と越野の家から近いんだな」とかなんとか言って私の頬にちゅっと軽く口付けた仙道はスマホを見て、「それに、充電本当はあるしね」なんて言って笑う。私は仙道が口付けた頬を押さえながら『ばか!そんな事するから女ったらしって言われるのよ!』なんて仙道の背中をパシッと叩いた。仙道はあはは、なんて笑いながら「じゃあ月曜日」と言って私に背を向けて、近くに止まっていた自転車に跨ってこちらを振り向く。






「俺、本気になりそう」





『なにが?』





「内緒」





そう言って笑う仙道に私は、今だに熱い頬から熱が伝わっていくみたいにドキドキしていた。こんな事されたら勘違いしちゃうじゃない。なんて思いながら仙道の背中を見送った。





夜中の電話
(ちょっとどころじゃなく意識しちゃったりして)






部屋に入るとまた着信を告げる音が鳴って、電話を取るとまた仙道からだった。『忘れものした?』なんて私の問いかけに対して、仙道が「そ、忘れた」なんて言うもんだから、『なにを?』と問いかけながら、私は何か持ってきてたっけ?って仙道の格好を思い出すけど、手ぶらだったよな。なんて頭にはてなを浮かべる。





「やっぱキスしながらセックスしよう」





『〜ッ!しないってば!』





受話器越しに仙道のいつもの笑い声が聞こえて、私は顔が熱くなるのを感じた。そして仙道は私の中で、女ったらしなナルシストで絶倫体力お化けのキス大好き性欲バカという長ったらしく悪口レベルのレッテルを貼られることになる。









Back