『何、してんのよ…』





土曜日の夕方、親が帰りが遅いなんていうもんだからコンビニに行って夕ご飯でも買おうと思って玄関の扉を開けると、家の外には仙道が立っていて、塀に背中を持たれながら首だけこちらを振り向いて私に向かって「よ、」なんて小さく声を漏らした。私は仙道のことが見れなくてすぐに仙道から視線を逸らして『よ、じゃないし…』と口を尖らせる。その反応を見て仙道が「田中電話に出てくれないから」なんて言って小さく笑った声が聞こえた。当り前じゃない、私は仙道が他の女の子と一緒に寝ている場面を見たんだから。私じゃなくて、他のこのところに行けばいいじゃん。仙道の口車になんて乗ってあげないんだから、馬鹿。なんて心の中ではたくさん言葉が出てくるのに、私の口からは『だから何よ』なんて短い言葉しか出せなくて、下を向いているのに目線を泳がせる。




「会いたかったんだ田中に」





『なによそれ…仙道は女の子ならだれでもいいんでしょ』




「傷つくなー…、でも田中にだけだよ。こんなことするの」





「だから、こっち来てよ」なんて言った仙道の言葉を私は信じられなくて、首を左右に振ると仙道はあはは、って何がおかしいのかわかんないけど笑ってた。『何笑ってんの馬鹿』っていって私は拳に力を込める。仙道は、なんで私にこんなこと言うんだろう。他の子みたいに仙道になびかない事が悔しいの?私で遊んでる?なんて思っていたら悲しくなってきて、散々泣いたはずなのに、私の視界はじわりと滲む。外にいるのに、鼻をすすった音が響いてる気がして、私は悲しい気持ちに耐えきれなくて『仙道、帰って』って震える声で呟くと、異変に気付いた仙道が「なんで泣いてんの?」って声を漏らした。なんで泣いてんのって…あんたのせいだよ仙道。て、言うか仙道の事を好きになってしまった私のせいだけど…。涙を溢さないように必死な私は、仙道の問いかけに答えられなくて、黙ったまま下を見つめる。重力に逆らえない涙が落ちそうな瞬間、カシャンッて音がしたすぐ後に私は腕をグイっと引かれて、驚いたと同時に仙道の胸にドンって私の顔が当たった。途端に仙道のにおいが私を包んで、仙道の腕が私をギュっと痛いくらいに抱きしめてきて、耐えきれない涙がぽろぽろと頬を伝っていく。






「泣いてる理由、教えて」





『仙道、なに…』





「門飛び越えちゃった。ごめん」






『不法侵入だよ、馬鹿』






「うん。そーだね」






『あんたって、本当…最低…』






「好きな子が泣いてるのに何もしないなんて、できないだろ」






「好きな子」と言われて私の目からはまた涙が溢れ出てきて、なんでこんな嘘つくの、もう仙道となんて友達でもいられないよ。なんて思いながら仙道の胸を両手で押すけど、仙道は負けじと私をきつく抱きしめる。『いや』なんて声を出しているのに、仙道は離してくれなくて、「俺じゃだめなの?」なんて私の耳に唇を寄せた。なに、してんのよ。やっぱり、仙道は私の身体目当てなんだ。たまたま相性が良かっただけで、こんなにも私を苦しめるの?あんた、本当最低だよ…。涙は溢れ出て止まらないのに、私の口からは言葉が出なくて、胸がぎゅうっと痛くなる。それと同時に仙道が「花子の気持ちが知りたいんだ」なんていう自分勝手な仙道に、私は『私は…仙道なんて、大っ嫌い』と震える声で呟いた。嘘をついた。全然大っ嫌いじゃない。本当は好き、好きだけど、仙道は私の彼氏でもなんでもないし、私1人のものにはならない。それがすごく嫌で、自分の気持ちを隠したかった。仙道を好きって気持ちが苦しくて、仙道を好きな気持ちが、消えちゃえばいいと思った。だから、大っ嫌いなんて言ったんだ。私の言葉なんかお構いなしに、抱きしめる仙道の腕は緩むことはなくて、仙道は小さく笑って「そっかー」なんて馬鹿みたいに緩やかな声を耳元で出した。






「俺は大好きなんだけどな」





『嘘、ばっかり...』






好きなのは、私だけで、仙道は本気じゃないくせに。嘘だ、と思うのに、私は心のどこかでは期待していて、それが打ち砕かれるのがわかるから余計に辛くて涙が止まらない。私の目の前の仙道のシャツが濡れてきて、冷たい生地が私の鼻先をかすめる。それすらも何だか痛くて、私は心臓が張り裂けるってこう言うことかも、とかなんとか。仙道は「うーん。」なんて困ったような声を出して、私の肩に頭をもたれた。










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