「田中、仙道の何に悩んでんの?」






『別に、悩んでなんか...』







「じゃあなんで泣いてんだよ」







『...わかんない』







嘘だ。本当はわかってる。だけど素直になれない私は自分で認めたくないだけで、私は仙道のことが気になってるどころか、多分好きだ。いや、多分なんかじゃない。私は仙道が、好き。だから女の子に囲まれて笑顔を振りまいてる仙道なんか見たくないんだ。だから、私以外にもキスやらセックスやらしている事が悲しいんだ。なんて頭では冷静に考えられるのに、私の気持ちは追いつかないみたいに苦しくて、私は顔を埋めたまま、越野のタオルをさらに強く握りしめた。







『越野...』





「なんだよ」






『タオル、ありがと』






「おー」






『私...越野の、匂い好き』






「お前...なんかキモいぞ」






『な!に!よ!素直に言わなきゃよかった!』







「おーおー、元気になったか、そうかそうか」







私がそう言って越野の肩を叩くと、越野は私の手を腕で受け止めながらそんなこと言ってあはは、と笑った。ついでに私の顔を見て「ひでー顔」なんて言うもんだから、私はまた越野が貸してくれたタオルに顔を埋める。うわー最悪、仙道と顔合わせられない。化粧も落ちたしメンタルズタズタだし、それに好きと自覚してしまった私は、このまま今日仙道に会ったら心臓が壊れるどころか心肺停止しちゃうかも。なんて思ってたら越野が横から「お前さ、もっと素直になった方が可愛いよ」って言って私の背中をさすった。








『越野、めっちゃいい奴だね』






「そーだろ?俺はいい奴なんだよ」






『...もう二度と言わない』






「田中、そーいうとこだぞ」






『うるさい馬鹿』






「あ、仙道」






『っ!!!』





越野の言葉に私は思わず立ち上がるけど、越野はケラケラ笑いながら「嘘」なんて言って私を指差す。「どんだけ仙道の事好きなんだよ」なんて眉を寄せて笑うもんだから恥ずかしくて私は越野に向かってパンチする。だけど越野が私の手首を掴んだせいで、越野にパンチは届かなかった。







「たまには仙道にも、嫉妬させといた方がいいんじゃねーの?」






『なに、言ってんの...?仙道が私のこと好きなんてわかんないじゃん』







「まじ?田中って素直じゃない上に鈍感なの?」







『だって、仙道って私以外にも女の子たくさんいるでしょ』






「お前...本当...馬鹿だな」






『な、によ...』






「本人に聞いてみれば?」






『どー言う意味よ...』







眉を寄せた私の耳に、越野の顔が近づいてきて「ちゃんと素直になれよ」なんて小さな声で囁くもんだから、私は驚いて越野から身体を引いて両手を耳に当てるのと同時に顔が熱くなるのを感じた。『なにすんのよ!』なんて私が声を荒げると、背後から私の両脇に手が入ってきて、グイっと身体が持ち上げられる。身体が宙に浮く感覚がして驚いたのも束の間「田中、何してんの」なんて仙道の焦ったような声が聞こえて、私はグイッと仙道の腕の中に包まれていく。一瞬何が起こったのかわからなかったけど、越野が困ったように笑うと「俺を巻き込むんじゃねーよバカップル」なんて言って眉を潜めた。てかカップルじゃないし、なんなら私の片想いだし、越野はいい奴だけど馬鹿だし。とかなんとか思ってると、仙道が「越野、田中連れてくよ」って言うと、越野は「どーぞ」なんて言って、あっち行け、と言わんばかりに手をひらひらさせている。私はと言うと、仙道の腕の中にいる理由も分からないまま、後ろから香る仙道の匂いと、異様に熱いような仙道の腕にドキドキして、2人のやりとりを聞くどころじゃない。ドキドキしている私をよそに、仙道は私のことを肩に担ぎ上げるみたいに持ち上げると足早に歩き出して、私は恥ずかしくて『おろして!ばか!』なんて言うけど、仙道は無言のままで、諦めた私は越野が貸してくれたタオルを顔に当てて仙道がおろしてくれるのを待つしかなかった。











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