『馬鹿じゃないの...』






「うん。馬鹿な俺にさ...」






「田中の考えてること、教えてよ」そう言って私の手首を離さない仙道が、私の手を持ち上げてちゅっと小さく口付ける。仙道の口付けたところから熱を帯びていった手が、自分の身体じゃないみたいにドクドク脈打って、壊れちゃうんじゃないかと思った。そのせいで熱が伝染したみたいに早くなった私の心臓が、熱くなった顔が、仙道の視線でさらに熱くなっていく。私はなんだか恥ずかしさと、心臓の速さを誤魔化すみたいに仙道の手を払いのけて仙道に背を向ける。仙道が口付けたところを手で擦りながら『仙道って本当ばか』なんて呟いて下唇を噛んだ。なんで、こんなことするの。仙道って本当、期待させるにも程がある。私の何があんたをそうさせるのよ。とかなんとか思っていると、私の首に仙道の腕が巻きつく。さっき越野がしてたみたいに。






『やだ!なにしてんの!?』






「越野は良くて、俺はだめなの?」






仙道が私の耳元で囁いて、なんだか胸がいつも以上にドキドキする。私は首に回った仙道の腕に手を置くと、仙道の腕に力が入って私の目は泳いでいく。なんで、こんなことするの。誰にでもこんなことしてるの?仙道って本当、振り回すのが上手だ。思ってる言葉を言う前に、仙道が吐息まじりに「花子」って私の名前を呼んで、なんだか私の体が熱くなる。やめてほしくて首を左右に振ると、仙道は小さく笑って「俺にこうされるのって、どんな気分?」なんて言うもんだから、私は目を瞑って仙道の腕を引き剥がそうと仙道の腕に置いた手に力を込めた。







『や、だ...仙道やめて』






「教えて花子」






仙道の囁いた声が身体中に響いてる気がして、私はなんだか身体が熱くなる。それと同時に仙道の空いた手が私の太ももを這って、私が驚いて声を上げると仙道が耳元で笑って「俺の声だけで濡れる様になった?」とかなんとか。私は恥ずかしさと今の状況から逃れたいのとで『そんなわけないでしょ!離して』なんていつもみたいに可愛くない言葉を口から吐いた。だけど、仙道はそんなのお構いなしに私の内腿に手を滑らせる。驚いて目を開くのと同時に、ピクリと反応した私を見たのか、仙道が私の耳に舌を這わせていく。私は『やめて』なんて言いながら仙道の唇からなるリップ音と、ピチャリと鳴る水音でどんどん身体の力が抜けていって、抵抗もままならない。






『や、め...っ...』






「花子のやらしー顔みせて」






『っ...!や、ぁ...』






「俺だけにさ」







呟いた仙道が私の顔を覗く様にして顔を移動させると、私の首に回った手で顎を掴んだと思ったら、私の顔を無理やり仙道の方に向けさせる。瞬間に目があった仙道が目を細めて「そうそう、その顔」なんて言って笑った。私は顔が熱くなったのを感じて、恥ずかしさから眉を寄せると、仙道の顔が近くなって、お互いの唇が触れるスレスレでピタリと止まる。「キスしたい」って私の目を見る仙道から目を離せない私は、何故だかじわりと視界が滲んだ。






「花子、そんなに俺とキスするの嫌?」






『い、や...』






「なんで?」






『そ、れは...』






「ん?」






『仙道とキスするの、ちょっと怖い』






私が答えると、仙道が眉を上げて拍子抜けたような、驚いた様な顔をして「こ、怖い?」なんて焦った様に呟く。私は仙道の顔を離す様に、仙道のおでこに手を当ててグッと顔を押すと『その...』なんて言いづらい理由のせいで仙道から視線を逸らした。正直に言っていいんだろうか。別に仙道とキスするのが凄い嫌、と言うわけではなくて、気持ち良くて怖いなんて言ったら馬鹿にされちゃわない?と、グルグルまわる頭の中を整理するみたいに私は息を吸う。それと同時に仙道が私から手を離して、私に向き直るみたいに仙道が移動すると「俺が怖いの?」なんて私の顔を覗いてくる。違う、そうじゃない。って言うみたいに首を左右に振って、私は自分のスカートをギュッと握りしめると覚悟したみたいに『気持ち良くて、怖い』と言って目をギュッと瞑った。









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