私は流川楓が憎い。凄く憎い。こいつのせいで私は恋人に振られたのだ。そう、この流川楓が、インターハイで山王に勝った次の試合で、ぼろ負けなんてしなければ私はわざわざ秋田から神奈川の高校に編入して復讐しようとなんてしなかった。そう、全てこの流川楓が悪いのだ。インターハイが終わってすぐ、栄治に「ごめん、やっぱバスケに集中したい」と言われて別れた後、私はボロボロだった。今までは仲が良い恋人として隣にいたのに、なんで栄治が急に別れを告げようかなんて思ったのか、私は調べに調べて、親の話を押し切ってまで、このしょうもない湘北高校へ入学したのだ。そして編入して知ったことと言えばバスケ部のエースは流川楓、だと噂を聞いた瞬間、私は復讐のターゲットに狙いを定めた。




『きゃっ!』




流川楓の背中に向かってわざとぶつかって転んだ私は『ごめんなさい…』と、か弱い女のフリをして流川をちらりと見つめた。そう、もちろん上目遣いに涙目で。こんなか弱い女の子、放っておく男子なんているわけない。と自信満々だったのに、廊下に居た他の生徒がざわつく中、流川は私に視線を少しだけ移すと「っす」だけ口にしてすぐに前を向き直って廊下をスタスタ歩いていった。え?!それだけ?!と口に出すことなんか出来ない私はムッと少しだけ眉を寄せて立ち上がって、スカートに着いたホコリだかなんだかを手で払う。やはり一筋縄では行かないのね、流川楓。落とすのが難しければ難しいほど私は燃えるのよ流川楓。覚悟していなさい!と心の中で宣言しながら流川の背中を静かに見つめた。要するに私の目的は流川楓が私に恋をする様に仕向けて、私にメロメロになった所でポイ捨てしてやるのだ。そう、私が栄治に捨てられた時の様に苦しめばいいのよ。メラメラ燃える私を他所に、どんなに流川楓の前を通っても、学食の前の席に座っても、流川楓のクラスまで行っても、流川楓の瞳が私の姿を映すことはなかった。




『もう!どうすればいいの!?』




悲しくて体育館裏で座りながら一人寂しくお昼ご飯を食べていた時、シューズと体育館の床が擦れる音が聞こえてきて、ゆっくりと体育館を覗くと宿敵流川楓が1人でシュートを決めている姿があった。しばらくその姿を見つめていたのは、流川楓と栄治の姿が重なったからだ。栄治も昼休みによくバスケしてたな。ずっと私は見てるだけだったけど。なんてボーっとしている私が悪かったけど、「あ、」なんて声とともに流川と目が合って、私の顔面に向かってボールが飛んできた。ボールの動きはスローモーションに見えるのに、私はそれより早く動けなくて、そのまま私の顔面を直撃。跳ね返ったボールが体育館の床に跳ねながら転がって、「すんません」と流川が一言私に向かって軽く頭を下げている。痛い、と思うよりも流川楓が頭を下げた事の方が私には衝撃だった。そのままじっと私を見ている流川に何も言えなくて「胸」と短く聞こえた流川の声でハッとした。





『え?』

「胸…見えてる」

『?!』




パッと自分の胸元を見ると前かがみになっているせいで胸が見えていた。急いで胸を手で隠しながら流川へ視線を映すと、流川は「邪魔」と短く言ってボールを拾う。私は人の胸を見たくせになんの反応も見せない流川に腹が立って『あんたなんなの!?』と眉を寄せて声を荒げた。流川は何ま言わないまま私から視線を逸らして、そのままリング目がけてボールを投げる。それを見ているとまた余計に腹が立って、ムッと眉を寄せると、流川が一言「あんたこそ何」と私の方へと顔を向けた。




『は?』

「最近、よく見る」

『それは!あんたが!嫌いだから!!』

「そっすか」

『そう!嫌いだから!!』

「...」

『何よ?言いたいことでもあるわけ!?』

「別に」




短く言った後流川がまたボールの方へと足を進めて、私はさらにムキー!!と効果音が聞こえるほどに腹が立つ。立ち上がって靴を脱いで体育館に足を進めてから、流川の目の間に立つと『1on1、勝負よ』と何故だか言ってしまった。別に私はバスケが上手いわけでもないのに。流川はチラリと私に視線を向けた後無視してそのままリング目がけてまたシュートを決めようとジャンプをした。邪魔しようと思わず私もジャンプしたけど、そのまま着地するときに「パンツ」なんて少し低い声で言われてスカートを抑えてしゃがみこんだ。流川は私のことなんかお構いなしに、もう一度リングへ向けてボールを投げた。胸だけでなくパンツまで見られるなんて!一生の不覚!とガクッと顔を床に向けて、後ろから「邪魔」とまた声が聞こえた。こいつ…!




『あんたね!?一応私年上なんだけど?!』

「あっそ」

『敬語使いなさいよ!?』

「うっす」

『うっすは敬語じゃないからね!?』





話の通じない流川楓に復讐するのはまだまだ時間がかかりそうだ。て、言うかその前に私の心が折れるかもしれない…。




『あんたのせいで昼休み終わっちゃったじゃない!!』

「…」

『何よその顔!?!?』

「…」

『だから何よ!?』




続く…?(わけない)


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