『え?何これ、どういう状況?』

「だから、俺が話した通りだよ」

『なんで、うぇーいしか言えなくなっちゃったの?』

「俺も聞きてーよ」



そう言って手で頭を抱えた越野が、仙道に視線を移した。何が起こってるか頭を整理させようとするけど、私も頭が混乱していて何が何だかよくわからない。越野が言うには仙道が「うぇーい」しか喋れなくなったらしい。




『そんなわけないじゃん...うぇーいしか喋れない人間いないし』

「俺だって信じたくないけど、まじでこいつ、うぇーいしか言わねーんだよ」

『仙道...?喋れる?』

「...うぇーい」




静かになった教室に仙道の「うぇーい」が響いた気がして私は堪えられなくなって吹き出してしまった。何それ、意味わかんないし、なんでうぇーいしか喋れないの?なめてんの?面白すぎる。




『あはは!仙道、本当は喋れるんでしょ?』

「うぇーい」

『ふwwwふざけてんの?www』

「うぇーい」

『やめてよwwwwやめてwwww』




お腹を抱えながら笑った私に仙道は困った様に眉を寄せて「うぇーい」と一言言うもんだから、面白すぎて私はケラケラと笑いだす。越野も耐えきれなかったのか笑いだして、もうカオス空間って感じだった。





「キス、してみよう」

『は?』

「ほら、おとぎ話だと奇跡起こるじゃん」

『ここ現実だし、何ロマンチストなこと言ってんのよ』

「うぇーい!」

「ほら見ろ。テンション上がったし、たぶん仙道もされたがってるんじゃね?」

『意味、わかんないでしょ』





そんな事あるわけないじゃない。なんて思う私に、越野が「俺あっち向いてるから」なんて言って私と仙道に向けて背中を向ける。私は『仙道、本当にキスしたら治るの?』と仙道に投げかけると、仙道は「うぇーい、うぇーい」とか言いながら首を縦に振っていた。笑いを堪えながら仙道の頬に手を添えて唇を近づけると、仙道が少し笑った気がして、私は思わず唇を遠ざける。瞬間に「あー...」なんて仙道の残念そうな声が聞こえて、私は思わず仙道の頬から手を退けて怪訝な顔をして見せると仙道が意地悪そうに笑ってた。





「あとちょっとだったのになー」

『え?な、なに!?』

「いやー...キスして欲しかった...」

『ふ、ふざけてたの!?』

「いつも俺からしかキスしないから」

『〜ッ!?』





私の顔が熱くなっていくのと同時に仙道が「本当に信じるんだもんな。おもしれー」なんて言ってクックと笑うもんだから、私は恥ずかしくて背中を向けた越野の服を引っ張って『あんたも知ってたのね!?』と声を荒げた。越野はケラケラ笑いながら「お前、本当信じやすいな」とかなんとか。





『もう!!心配して損した!地獄に落ちろ馬鹿ども!』

「キス、してくれないの?」

『しないし、帰る!』

「あはは、ごめんごめん。もうしないから」

『仙道なんか知らない!ばーか!一生うぇーいしか喋れないで生きていけば良いじゃん!ばーか!』





私は子供みたいにおかしな事を吐き捨ててから教室のドアを勢いよく閉めて、廊下を走るとスマホが震えて着信を告げた。ディスプレイの文字には仙道の文字が映し出されていて、不機嫌そうに『はい』とスマホに耳を当てると「本当にごめん。一緒に帰ろう」なんて穏やかで優しい仙道の声が聞こえてくる。まだ怒りが治らなかった私は『帰りにアイス奢ってくれたら、許す』と口を尖らせた。





「いいよ。好きなやつ買ってあげる。下駄箱で待ってて」

『わかった。じゃあ1番高いやつ買ってもらうから』

「あはは、うぇーい」

『うるさい』





言いながら終話ボタンをタップして下駄箱に向かうと、いつの間に先回りしてたのか仙道がすでに待っていた。しかも、汗を少しかきながら。




「本当に怒った?」

『まだ怒ってる』

「うぇーい」

『まだやってんの?怒るよ?』




言いながら仙道に視線を移すと、仙道は自分の唇を指差しながら「うぇーい」なんてまた一言言っていた。なにやってんのよ全く。『キス、しないと喋れないんだっけ?』と眉を寄せた私に、仙道は「うぇーい」なんて馬鹿みたいに言いながらニコッと笑う。私はキョロキョロと辺りを見渡して、誰もいないことを確認すると自分から仙道の唇に自分の唇を押し当てた。私も、なにやってんのよ全く。




「ありがとうお姫様、仙道王子は喋れるようになったよ」

『...馬鹿じゃないの』

「あはは、そうかも。でも、すげーキスして欲しかった」

『もうしないからね』

「いいよ、今度は俺からするから」





仙道が優しく微笑むと私の胸は熱くなって、顔も身体もどんどん熱くなっていく。瞬間、仙道の唇が私の唇に触れて静かな下駄箱に小さなリップ音が響いてる気がした。







Fin.
Twitterにupした過去話。