「俺、ちゃんと責任取るで」


南さんと初めて繋がった日、南さんが言った言葉にドキドキしながら確認するように私は『え?なんの話ですか?』と南さんに言うと、南さんは少しバツが悪そうな顔をして「田中の彼氏になるで」なんて言った。私は好きでもないのに南さんが私を抱いてくれただけで嬉しいのに、これ以上迷惑はかけられない。それになによりも南さんは私の事を好きじゃない。そりゃ付き合いたいけど私の事を好きじゃないのに抱いて貰ってから責任取るなんて言われると、私の胸は苦しいだけで、私は思わず『え!?そ、そんな!いいですよ!?』と口にする。同情からなのか性欲が抑えられなかったからなのかわからないけど、南さんは私を抱いた。抱いてくれた瞬間に、心臓が飛び出そうな程に嬉しかったし、初めてなのに頭が溶けちゃうくらいに気持ちよかった。でも、両想いになれないのに付き合うって、何か違う。恋愛経験のほとんどない私は、南さんが私の事を好きになってから付き合ってほしいなんて高望みも良いとこなんてわかっているのに、南さんが言った「彼氏になるで」という本来ならば飛び跳ねちゃうくらい喜ばしい言葉に、どうしても『はい』とは言えなかった。



「は?」

『え?』

「お前は俺との関係をどーしたいんや」




言われてから南さんが私を好きになってくれる可能性はないんだろうか、と少し考えて『とりあえず、エッチ友達になりましょう!』なんて口にする。「セフレやないか!アホ!」なんて突っ込んできた南さんに、あははと笑いながら、私はどうしたら南さんが私のことを好きになってくれるのか考えていた。私は南さんがすごく好きだ。例え南さんと今付き合ったとして、南さんは私の事を好きなフリをするんだろうな。「俺、好きな人おって…いや、正確には好きだった。が正しいんかな。忘れられへんねんけど、早よ...忘れなあかんねん」何年も前に言っていた南さんの言葉を、こんな時に思い出してしまって、今もその人の事、忘れられてないんですか?なんて聞けない弱虫な私の胸は、勝手に南さんの言葉を思い出して、勝手に胸がチクリと痛んだ。
















「お前、いつまで俺とこの関係でいるつもりなん?」



結局南さんが私の事を好きになってくれているのかわからない状態のまま、だらだらと関係を続けて2か月間が過ぎた。突然南さんにそう言われて、私は思わず固まってしまう。どうしよう、南さんはやっぱりこの関係を辞めたいのかな。私のことが好きじゃないから?私はまだ、自分の本音を話せていなくて、南さんの本音も聞けてない。どうしよう、と思った私は『南主任は…その…もう、辞めたいですか?』なんて南さんに聞くと、「別に、そう言うわけちゃうけど」と南さんは眉を寄せた。そういうわけじゃないなら、どういうわけなんですか。なんて私の口からは出てこなくて、少しだけ滲んだ視界で南さんを見つめる。南さんと視線が合うと、私は滲んだ視界を見せたくなくて、南さんから視線を逸らした。不意に漏らした『烈さん』と南さんの名前を口にした私に、南さんは「…なんや、誘っとるんか?」なんて言って小さく笑う。


『違いますけど…』

「けど、なんや」

『烈さんは…私の事、どう思ってるんですか?』



勇気を出して言った言葉に、緊張からなのか私の心臓の音が早くなって、私は思わず目をギュッと瞑った。南さんが、私を好きになってくれていればいいな。なんて淡い期待を胸に聞いた言葉に、ドキドキしながら返答を待っていた私はベッドシーツを手でギュッと掴む。だけど。しばらく南さんは黙っていて、南さんは全然私の事を好きじゃないんだって思った。ここで「別に好きじゃないけど」なんて言われたら私生きていけない。なんて思って思わず自分から質問したくせに『やっぱり、言わなくていいです。』と言って、無理やり笑顔を作って見せた。




『私はまだこの関係、辞めたくないです。南主任』

「なんで?」

『そりゃ!やっとこの関係になれたんですから!』

「は?なんやそれ、セフレの関係に、なりたかったん?」

『そーいう訳じゃないですけど、一歩前進です!』

「ふーん…?よぉ、分かれへんけど、良かったな」



なんて言った南さんに、全然良くないですよ。なんて心の中で思いながら、私は南さんに気づかれないように小さくため息を漏らした。セフレの関係からの恋人の発展って、希望はないんだろうか。なんで私、最初に南さんが「彼氏になるで」と言ってくれた時に『はい』って言えなかったんだろう。言えてたら、別の未来が見えていたんだろうか。考えてもわからなくて、何故だか近づいてくる南さんの唇に応えるみたいに、私は静かに瞼を下げた。





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