結局、資料作りは終電ギリギリまで続いて、俺がレビューを終えて「ま、こんなもんやろ。よー頑張ったな」なんて言う頃には田中はデスクに突っ伏したまま『本当に遅くまでお付き合いいただき、ありがとうございました…』なんて元気なさそうに呟いた。「終電なくなんで、はよ帰る支度せえよ」と俺がパソコンの電源を切ろうとした瞬間、あんなに元気がなかった田中が俺のデスクに寄ってきて『ご褒美、ください』って俺を見つめる。あ、そんなこと言っとったっけ。なんて思いながら俺は田中を見つめて「田中、好きやで」なんて呟いた。言った途端にボッと効果音がなるくらいに赤くなった田中の顔に、伝染したみたいに俺の顔が熱くなる。なんだか恥ずかしくて田中を直視出来なくなった俺は田中から少しだけ視線をずらすと、田中が自分の顔を手で覆うのが視界の隅で見えた。



「言わせといてノーコメントなん?めっちゃ、恥ずかしいねんけど」


『…』


「田中、聞いとる?」


『…』


「おい、田中。お前、返事くらいせえよ」



言いながら田中に近づいて、田中の手首を掴んで無理やり顔を見ようと、俺は田中の手首を掴んだ手に力を込める。田中は抵抗するみたいに『や、やめてください…!』なんて言って手に力を込めていく。俺は容赦しないみたいに田中の顔から手を引きはがす様に引っ張ると、田中の酷く赤らんだ顔が見えて、それと同時に潤んだ瞳と目が合った。



「泣い、とるん?」


『違っ…違いますよ…!』


「じゃあ、なんでそんな顔しとるんよ」


『な、なんでもないです…ご褒美ありがとうございま、した…』



田中がそう言って俺から逸らすみたいに顔を横に向けた瞬間に、重力に逆らえなかったのか、横を向いた勢いなのか、はたまた田中が我慢が出来なかったのか、田中の頬に涙が流れているのが見えた。「なに、泣いとんねん」と呟いた俺に、田中は『なんでもないですから、手、離してください。終電無くなりますよ』なんて俺を見ずに言うもんだから、俺は無理やり田中の顔を覗き込むと田中の涙は止まらないみたいに更に溢れ出る。



『見ないで、くだ…さい…』


「じゃあ何で泣いとるんか教えてや」


『み、なみ主任の、せいじゃないです…から』


「そうなんや…」



田中がまた本音を隠すみたいに俺から視線を外して、俺はなんだか胸がギュッと締め付けられるみたいに痛くなった。もやもやしている俺の胸がなんだか気持ち悪くて、田中の手首を持つ手を離して田中の頬に手を寄せて涙を拭う。それを皮切りみたいに更に涙が溢れた田中の瞼に口づけて「泣いとる理由言いたくないんやったらええけど、上司で教育担当なんや。田中が泣き止むまで待っとったるわ」なんて言って俺は眉を寄せて笑った。





君の本音が知りたい
(俺ほんまは、田中の事好きなんかもしれへんな)




『もう、泣き止みますから…迷惑かけてごめんなさい』呟いた田中の言葉に俺はため息交じりに「ええって。帰るんやめて飲みにでも行くか?話聞くで?」なんて俺の問いかけに田中は首を左右に振ると『南さんのちくわが食べたいです。勿論下の』なんて言って泣きながら笑った。


「あほ、そんだけ元気ならもう帰るで」

『待ってください!南主任!!今、泣き止みますから!』

「あはは、嘘や嘘。ちゃんと待っとったるよ」






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