『本当ですか!?』


「ほんま、ですか…?」



仕事中、部長に呼び出された俺と田中は、「出張に同行してくれ」と言われて頭を抱えた。部長と俺が出張に行くのは良いとして、田中はほんまに大丈夫なんやろうか。そもそもなんで田中なんやろう。フレッシュな女性だからか?部長の前で怪訝な顔を見せた俺は「なんだ南、不服か?」という部長の言葉に「いえ、田中が少し心配で」なんてちらりと田中に視線を向けると、部長は「何事も経験しないとな」なんて言って笑っていた。いや、そうなんやけど、見て?この田中の顔、すごいで?めっちゃ目が輝いとるやん。何なん?その顔。出張に行けるのがそんな嬉しいん?土産?食い物?何をそんなに喜んどるん?心の中で色々突っ込んでみたけどキリがなくて、俺は部長に「よろしくお願いします。」なんて言って頭を下げた。



「資料作りは田中がやってみるか。勿論、南が指導するんだぞ」


「マジっすか…」


『頑張ります!南主任、よろしくお願いいたします!』


「変な資料作らんといてな」


『南主任がついてるんで大丈夫ですよ!』


「はは、頼もしいよ。じゃ、よろしく」


言いながら拳を作った田中が俺を輝いた眼差しで見つめていて、俺は小さくため息を漏らす。部長の席から田中と同時に離れた俺はこそっと「何がそんなに楽しみなん?」と耳打ちすると、田中は少し顔を赤らめながら『その…南主任と同じ仕事ができるので…』なんて俺を見ないまま小さく呟く。普段見せる田中の顔とは違って、しおらしいような顔の田中に少しドキッとしたけど「あほ、こっちが恥ずかしなるやろ」なんて俺は口を尖らせた。

























出張の前々日、資料作りの修正が終わらない!と嘆く田中と一緒に残業しながら、「お前、資料作り苦手なんやな」なんて眉を寄せながら言った俺の言葉が、俺達以外に誰もいない社内に響いた。田中は涙目になりながら「そうなんです…」と言ってパソコン画面を見つめる。田中は今までなんでもそつなくこなすと思っていたもんだから、俺はなんだか笑ってしまった。田中も人間性以外に欠点あるんや。なんて思っていたけど、資料作りが終わらない事には明日、部長に報告する打ち合わせに間に合わなくなる。そんなことになったら俺の監督責任になりかねない。それは困る。と思った俺は自分の席から田中の空いた隣の席に座って「田中、本気出さんかい」なんて机に頬杖をついた。



『…び…』


「ん?なに?」


『ご褒美、くれたら…もっと頑張ります…』



言いながら眉を寄せた田中が俺を見つめて、俺は思わずドキッとしてしまう。俺は胸が熱くなってることを誤魔化すみたいに「どんなご褒美がええねん」なんて言って田中から視線を逸らした。途端に田中が黙って、俺は思わず視線を戻して田中を見つめると、今度は田中が俺から視線を逸らして頬を徐々に赤らめていく。なんで、そんな顔しとるんよ。そんな顔されると俺のほうが恥ずかしなるやん。どんなえろいご褒美を想像しとんねん。心の中で呟いた言葉は俺の口から出てこなくて、パソコンのモーター音と、俺の少し早くなった心臓の音が、社内に響いている気がした。





『好きって…言ってください。』


「は?」


『好きって言ってくれるなら、もっと頑張ります…』




田中が言った言葉に驚きながら、俺は「そんなんでええん?」と田中の顔を覗き込むと、田中は更に顔を赤らめて『はい…』なんて小さい声で呟いた。なんやねん、その可愛い顔。と俺は困ったように眉を寄せて「ほな、どこで詰まっとるんか見たるわ」なんて田中のパソコン画面に目をやった。瞬間、突然田中が『だ、だめです!!!今見たら!!!』と言ってしがみつくみたいにパソコンの画面を手と身体で覆う。おかしいと思った俺は田中を無理やりパソコン画面から引きはがすと、でかでかと俺の顔がデスクトップに映っていて、俺はピクリと眉を釣り上げた。



「田中…?」


『は、はい…』


「お前、業務中にふざけとるんちゃうぞ!」


『ち、違うんです南主任!仕事中に緊張感と幸福感を貰おうと思って、南主任の写真を取り込んだだけで…!』


「何時、撮ったんやこんなもん!」


『新人歓迎会の飲み会の時です…』


「アホ!盗撮やろこんなん!」


『失礼ですね!?人を変態みたいに!!愛の結晶ですよ!』


「お前が変態なんは十分わかっとるわ!消せ、今すぐ!」


『嫌です!私のパソコンは私だけのものです!』


「お前のちゃうわ!会社の資産や!ボケェ!」






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