田中とセフレになってから2か月程度が経った。関係を持って田中についてわかったことがある。普段は積極的なくせに不意打ちに合うと、めちゃくちゃしおらしくなる。と言うことだ。それがギャップというんやろうか、俺的にはすごく可愛く感じてしまって、そんな田中を見ているとどうも俺は調子が狂う。不意に田中に「風呂でも一緒に入る?」なんて言えば、田中は口を金魚みたいにパクパクさせて顔を赤面させていく。普段の積極的な態度はどこ行ったんや。と思うくらいに赤くなる田中が可愛く思えて、俺は時たま田中に対してドキドキしていた。この2か月間は身体を重ねるたびにお互いの肌が馴染んでいくみたいでどんどん気持ちよくなっていって、名前を呼んでキスすると上気する田中の吐息が、赤らんでいく田中の頬が、俺を胸を熱くさせていった。


「お前、いつまで俺とこの関係でいるつもりなん?」



情事後のベッドで不意に言った俺の一言に、田中が少し黙ったまま固まって、なんだか瞳が濡れている…ような気がした。なんで、そこで泣くんや。なんて思っていたら田中が『南主任は…その…もう、辞めたいですか?』って言うもんだから、俺は「別に、そう言うわけちゃうけど」なんて口を尖らせる。違う、そうじゃない。そういうわけではないんだけれども、俺はいつまでこの関係でいればいいのかわからなかった。出来ればここまでの関係になってしまったんだから、俺としては付き合いたい。だけど、初めて抱いた時に田中は『いいですよ!』なんて言っていた。俺と付き合いたいわけでもないのに、田中は何故俺に抱かれているんだろう。そして、何故俺に気がある素振りをするんだろう。ほんまは、抱いてくれれば誰でもよかったん?考えてもわからなくて、俺は田中を見つめた。田中は俺と目が合うと、頬を赤く染めながら視線を逸らして、俺の名前を小さく呟く。




「…なんや、誘っとるんか?」

『違いますけど…』

「けど、なんや」

『烈さんは…私の事、どう思ってるんですか?』



言ってから田中が恥ずかしそうに目をギュッと瞑って、俺は田中から視線を泳がせた。田中の事を、どう思っとるかなんて、俺の中ではまだわからなくて、嫌いだったらここまで抱き続けるわけないやろ。なんて思うのに、俺の口からは「好きやで」なんて言葉が出てこない。田中が嫌いというわけではない。だけど、好き、というわけでもないのかもしれない。まず、好きの定義はなんやねん。そいつの事を考えとったら好きなんか?それとも可愛いと思ったら?しばらく恋なんかしてない俺には難しすぎて、俺は何も言えなかった。そのうち田中が『やっぱり、言わなくていいです。』って呟いて、にっこりと俺に向かって微笑みかける。




『私はまだこの関係、辞めたくないです。南主任』

「なんで?」

『そりゃ!やっとこの関係になれたんですから!』

「は?なんやそれ、セフレの関係に、なりたかったん?」

『そーいう訳じゃないですけど、一歩前進です!』

「ふーん…?よぉ、分かれへんけど、良かったな」



突然、いつもの田中に戻ったみたいに元気になって、俺は思わず眉を寄せた。一歩前進って、付き合うのがゴールやとしたら離れてへん?その一歩前進ってのは、処女を捨てて大人の女になった一歩。だとでも言うんやろうか?それに、俺の事を烈さんと呼んだくせに、本音を隠す様にして南主任と言い直した田中の言葉に何故だか俺の胸はチクリと痛んだ。なんで俺、こんな些細なことで胸が痛むんや。こんなん、まるで俺が田中の事気になっとるみたいやんか。そんなわけないやろ、ありえへん。やって、こいつ俺の事好きなんか、よくわかれへんし…。そんな事を心の中で呟いてから、俺は田中を見つめて、一体、田中の素はどっちなんだろうか。なんて考えていた。田中はやっぱり、変わっている。





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