「最後」なんて言ってカッコつけたキスが、現在28歳の俺の人生で最後のキスだった。淳子を超えるほど好きになるやつなんて居ないやろなって思ってた。アイツに出会うまでは






















『遅れましたー!!すいませーん!』







「花子遅いぞー!」なんて声が聞こえた居酒屋の個室。俺含め男女5人が盛り上がる中、花子と呼ばれた女が俺の目の前の空いた席に荷物を置いて俺の顔を見て『あはは、やっぱカリメロだ』なんて笑った女は淳子に顔がよく似ていた。







「似てへんわ、ってか初対面やろ?」







『そうだけど?』







そう言って首を傾げた花子ちゃんは俺をジロジロ見ると『あは、カリメロさんよろしく』なんて言って笑って、隣の友達であろう女に「こら!今日はちゃんとしてって言ったじゃん!」なんてこそっと言われていた。(聞こえてるんやけどなぁ)






『あ!そうだった!し、失礼しました!田中花子でーす!道迷ってたら遅れちゃったー!』







あはは、なんて言いながら緩く笑った花子ちゃんは恐ろしいほど淳子に顔も声も似ていて、だけど笑い方も、仕草も、どこも似てなくて俺は何やってんだって思いながらフゥッと深呼吸をする。3月31日の今日、ちょうど繁忙期が終わって飲み会だなんて思っていたら「女子大生が来るぜ」なんて先輩に言われて無理やり連れてこられた合コンにやる気もなく参加させられている。女子大生なんて興味もなく、酒を飲みにきただけの俺は女の自己紹介なんかどうでもよかったし、なんなら数合わせやろ。なんて思ってつまみと酒を貪るように減らしていった。そこで現れた花子と呼ばれた女はやけに俺に絡んできて、目頭をギュッと指で摘む。世に言う頭痛顔ってやつだ。









「ごめんなさい、この子頭の中で会話勝手に進めちゃうとこあって...でも可愛くて良い子だから!」







フォローしたであろう花子ちゃんの隣の女が俺と先輩たちを見渡して、俺は「わかるわかる、そんな感じするわ」って呟いた。女のフォローってほんま嘘くさい。28歳にもなると男だって現実を見るものだ。先輩が言うように女子大生が可愛くて社会に揉まれてなくて良い子ばかりなんて思わへん。なんならフォローしてる私可愛い!くらい思っとるんやろな。なんて心ではひどいことを言いながらニコニコしてる俺は、誰なんやろ。なんで俺、28歳で東京なんかにおるんやろう。(あかん、仕事ばっかで病んでるんとちゃうか)









『出身は関西なの?』







「俺?せやで、大阪や。大阪やけど俺あんまり面白いこと言われへんで』







あはは、なんて笑いながらどうでも良いと思ってる。俺はどこで間違ったんやろ。大学4年の春、おかんから社会勉強しないと店を継がせないと言われた。経済を学んでるんだから店を任せられるようになるまでは一般企業で働けなんて、無茶も無茶や。説明会にも行ってない、エントリーすらしてない。そんなアホみたいな状況から俺の就活はスタートし、大阪支社で内定したはずが東京へ飛ばされて今では営業部の主任になった。若くして出世したこともあってか、経営陣や先輩からは可愛がってもらっていたけど、俺をよく思わない奴も中に入る。そんな会社の状況に、人生に俺は疲れていた。







『あなた...』








「南」







『え?』









「あなたやのうて、南や。花子ちゃん」









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