私は小さい頃から気が弱くて、地味で弱虫な女の子だった。


小学6年生の時、親の転勤で少しだけ大阪に暮らしていたことがあって、私の弟は東京でやっていたミニバスを大阪に行ってからでもやっていた。ミニバスの監督は、北野さんって言うおじいちゃんで「バスケットは好きか...?」なんて言って「うん!すげー好き!」って弟がニコニコ笑うと、北野さんは「そうか」と言って優しく笑っている顔が印象的だった。日差しが痛いくらいに照りつける暑い夏の日、北野さんは教え子がいる。と言って連れて行ってくれた全国高校バスケ大会で、私はあの人に、出会った。頭を強くぶつけた「南」と呼ばれるその人は、北野さんに包帯を巻かれているときに、パチっと目を覚まして、驚いたように北野さんを見ていた。「早よ 席に戻らんと良いプレイを見逃すで!!」なんて言った北野さんの言葉で、私と弟は急いで駆け上がるように階段を上がっていくけど、私は気になってチラリと後ろを振り返って、南と呼ばれた男の人を少し見つめていた。『怖そうな人』呟いて消えていく小さな私の声に反応するみたいに「お姉ちゃん!早く行こう!」って弟が言って、私はその場から逃げるみたいに去って行った。南と呼ばれたその人に、二度と、会うことなんてないと思ってた。


























「おい、」


『え...?』


「お前や、お前」


『わ、私ですか...?』





高3の秋、将来なにしたいかなんて分からなくて悩んでいた私は、受験生だから、という理由で入れられた塾に通って遅くまで勉強詰めだった。その日はたまたま塾で帰りが22時過ぎくらいになって、ファーストフード店で少しボーッとしていたらいつの間にか23時ごろになっていた。制服のままだし補導されちゃう。なんて思いながら、私は帰宅しようと急いでいたけど、歩道の植木に突っ込んだみたいな格好をしたサラリーマンが、私に声をかけてきて、気が小さくて、弱虫な私はその場から動けないまま、サラリーマンの言葉に返答をした。最初は暗くてよく分からなかったけど、道路を通ってく車のライトで、その人の顔と、姿がはっきり見えた。そのサラリーマンは、昔全国高校バスケ大会に出ていた、南、と呼ばれたその人によく似ていた。驚いて私はなにも言えなくて、そのまま固まってると、サラリーマンは私に向かって「ちょ、見とらんと、起こしてや」なんて言うもんだから、私は変な人に絡まれてしまったな。と小さくため息を吐いた。仕方なくサラリーマンに手を差し伸べると、握られた手が大きくて、熱くて、なんだか私はドキドキしてしまった。そのまま私が引っ張るとサラリーマンが「よっこいしょ」なんて言って立ち上がって、パッパッとスーツの汚れやらシワを伸ばしていく。フワッと香ってきたお酒の香りに、私は少し眉を寄せて、酔っ払いか。と思っていたら私の掌に500円玉が置かれた。





『なん、ですか?』


「水、買うてきてくれへん?ほんま動かれへんわ」


『え...?はぁ、良いですけど...』


「お前、ええ奴やな。俺、そこのベンチで待っとくわ。頼んだで、女子高生」





へにゃりと笑ったサラリーマンは、昔見た南、と言う人と違って怖くなかった。酔っていたから?それとも、別人?そんなこと思いながら近くの自販機で水を買って、待っとく。と言われたベンチに向かうと、サラリーマンはベンチに寝そべって鼻歌を歌っていた。本当、不審者。そんなこと思いながら、サラリーマンの目の前に水を差し出すと、「おー、さんきゅ。」なんて短く言って、私から水を受け取るとむくりと起き上がった。





「こっち」


『え?なんですか?』


「隣、座ってや」


『いや、もう帰りますよ...』


「そんな事言わんと、ちょっとおじさんの話聞いてや」





そう言われて渋々私はサラリーマンの隣に座ると、サラリーマンは自分の家のこととか、就活が大変だったとか、東京来たくなかった。とか身の上話をたくさんしてきて、正直どうやって反応したら良いのか分からなくて、私は『はぁ...そうなんですか』としか返事ができなかった。サラリーマンは「まだ高校生やろ?夢や希望もたくさんあってええな。部活、やっとるん?」なんて言って私に視線を送ってきて、だけど私は夢や希望が全然あるわけじゃないのと、将来自分がなにしたいのかなんてわかっていないのとで、『部活も、将来の夢も、希望も、なにもないですよ』なんて呟くと、サラリーマンは「ふーん」なんて言って口を尖らせた。







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