「何をニヤニヤしとんねん」





『ふふ、南主任の助手席に乗れることが嬉しくて』






花子ちゃん...いや、田中が俺の部下になってから1ヶ月。新人研修を終えた田中が本格的に営業として活動し始めたのが、ほんの1週間ほど前だが、これがカリスマ性という奴なんだろうか。田中花子という奴は、やる事全て覚えてしまうのだ。ちょっと俺も気をつけなあかんな、成績抜かされへんように。なんて思いながら、今日は客先挨拶に田中を同行させつつ、俺の案件の引き継ぎをしてもらおうか。なんて思っていた。そんな矢先、田中が静かな車内で頬を両手で覆うもんだから、俺はツッコミを入れつつ、田中の言葉にドキドキしていた。






「あんなぁ、今仕事中やぞ」






『南主任こそ、顔赤くなってますよ』






「なってへんわ、アホ」






嘘をついた。自分もドキドキしているくせに、なんて俺は車のハンドルを握る手にギュッと力を込める。田中が俺に向ける視線、姿勢が俺に好意を持っているということを確実にわかっていて、俺は誤魔化すようにこの1ヶ月間、いや...これからも続けていくんだろう。それは田中がただの合コン相手から、俺の部下に変わってしまったからだ。社内恋愛なんてゴタゴタする恋、俺はごめんだ。







『南主任、今日飲み行きませんか?』






「あー、今日はお客さんと予定入ってるわ」






『この前もそんなこと言ってたじゃないですか!』






「しゃーないやろ、仕事や。仕事」






そうですけど、なんて言う田中を他所に俺は客先の駐車場に車を停止させる。「着いたで」と、俺に田中はグイッと顔を近づけて『なら、いつ空いてるんですか?』と意気込むように俺を見つめた。







「そんな俺と飲み行きたいんか...」







『はい、ものすごく!』






「...来週」






『え?』






「せやから、来週の金曜日。飲み行くで」






『本当ですか!?』なんて田中を横目に、俺は車を降りて「約束の時間来てしまうで、はよ降りんかい」と開いた車のドアから顔を覗かせるようにして田中に言って眉を寄せる。田中はそんな俺に『はい!すぐに!』なんて言って車から降りると、俺の方へ回ってきて『頑張りますね!』なんてニコニコしていた。






『南主任!』





「なんや」






『鞄を車内に忘れたんで、車の鍵開けてもらって良いですか?』






「何やってんねん、アホか!」










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