Chapter 2
「わたし、嬉しいのよ。貴方との婚約が、とても嬉しいの」
砂糖菓子が囁けば、このような声を出すのかもしれない。
「どこか遠くの得意先と縁組するのだと思っていたから。貴方と結婚するのなら、わたしはずっとロダにいれるもの」
口の中に苦いものを覚え、俺は皿に手を伸ばす。
「お兄様の近くにいれるの」
ソーニャに絡め取られた眼をそのままに、ひとつ、俺は砂糖菓子を齧った。
「お兄様は約束してくださったわ。わたしに会いに来てくださると」
大輪の花が咲き誇るように、ソーニャは微笑む。
「ヴェッターグレン家とノルドヴァル家、両家が親密になるのはいいことよ。わたしのお父様も、貴方のお父様も、それを望んでいらっしゃるわ」
噛み砕いた砂糖菓子の、焼けるような甘さが口腔にへばりついた。
「お兄様の傍にいるために、わたしは貴方と結婚するの。都市貴族たる旧家の血脈ではなかろうと、そんなことはどうでもいいわ。わたしを妻とすることで、貴方はわたしをしあわせにしてくれる」
小鳥が囀るように、粉雪が軋むように、少女の声が耳をくすぐる。
「貴方もそうでしょう?」
白銀の髪が揺れた。椅子から腰を浮かせた少女は、片手を卓につく。ちいさな手が伸びてきた。ひんやりとした細い指が、俺の顎を掬う。
身を傾げて佇むソーニャの、水底のような冴えた目が、間近にあった。俺の顎を持ち上げた指が、ゆっくりと、喉をなぞり、肋骨を辿り、心臓を押す。
「貴方のここには、誰がいるの?」
俺は息を詰まらせた。白銀に飾られた獲物を捕らえた蒼の目が、からかうように、細められる。
すべるように、少女の指が離れた。両手を卓について身を乗り出し、見上げるように、ソーニャは俺の顔を覗きこむ。
無垢で無邪気な笑みが、俺の目の前で、弾けた。
「しあわせにしてね」
はにかむように、甘えるように、ヴェッターグレンの姫君は微笑む。
「不愉快だわ」
愛らしい唇から紡がれた耳朶を蕩かすような声は、杭のように毒のように、突き刺さって剥がれない。
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