Chapter 3




 ファウストゥス暦226年、フェブルアリウスの月の第19日。
 ロダという塩鉱都市において、凍土がゆるみ始める時期に開催される大市は、帝国中から人と品とが集まるものであり、春を呼ぶものでもあった。大市の中心となる中央広場では、例年よりも隙間があるとはいえ、時には罵声にも転じる取引の声や、ロダにおいては珍しい服飾を纏う人々など、あらゆる雑多さがひしめいていた。
雪の潤いを覗かせる曇天のもと、塩鉱都市を行き交う色彩のすべてを集めたかのような雑踏を縫って進む紫黒の青年の後を、白藍の少女とその侍女が追いかける。大きな目を怯えに染めて周囲を窺うテアに、発見することと換えることの興奮が渦巻く人混みの幕の向こうで、紫黒を雇用主とする傭兵が苦笑する。

「大市はお祭りだからな。日常のしがらみはお祭りには持ちこまない。それが大前提だ。ゆえに皇帝派と教皇派の睨み合いは一時休戦。だから、そんなに怖がらなくていい」

紫黒と白藍という砂浜を見失わない波のよう混雑を泳いでいた傭兵は、侍女の傍らを通り過ぎる際、安らぎを分け与えるようにその華奢な肩を叩いていった。

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