Chapter 3




塩鉱都市ロダ――ファーデン地区、ノルドヴァル邸。
アドリアナの居室にて、テアは居心地が悪そうに小さくなっていた。卓の上には湯気をあげているお茶と崩れそうなまでに盛られた砂糖菓子の皿。室の主は豪奢な金緑の髪を掻き上げながら、細めた蒼の目で、対岸の椅子に座る侍女を眺めていた。

「塩鉱で事故があったそうだ」

 この切り出しに、テアの肩がぴくりと跳ねた。

「今はまだ街は常の様相を保っているが、ほどなく混乱に蝕まれていくだろうよ」

 アドリアナは茶を嗜みなら、侍女の様子を窺う。俯き、肩をすぼめ、両手を膝の上に置いて悄然としているテアの、ただでさえちいさなからだは、更にそのちいささを増したかに見えた。やわらかな髪に隠されていた張り詰めた頬がかすかに崩れる。ちいさな唇が、痞えた喉から吐き出すように、嗄れた声をふるわせた。

「エメリさまは、わたしを残していってしまいました」
「それはテアを想ってのことさ」
「でも、きっと、ひどいものを見たり、ひどいことをされたり、ひどいことを言われたり。ひとりでぜんぶ受けとめようとしてしまう方なんです。つらくないはず、ないのに。つらくなかったら、あんなに――」
「それが責というものだよ。レドルンドを名乗る者の、責だ」

 豪快な所作をもって、テアから目を逸らさぬまま、アドリアナは脚を組み替えた。ちいさな侍女は唇を噛む。アドリアナの目もとがゆるんだ。

「エメリはよい侍女を持ったね」

 弾かれたように、テアは面をあげた。驚愕にまるくなった目が、アドリアナを映して揺れている。

「テアを残していったのはそれゆえさ。エメリはテアに感謝しているのだよ。だから、テアを護りたいのさ」

 念入りに手入れされた爪の光る指先で、アドリアナは砂糖菓子をつまんだ。苦渋とも憤懣ともつかないものが、テアの唇を歪ませる。アドリアナは卓の上に身を乗り出し、大きな蒼の目を正面に据えた。突然に近くなった暫定ではあっても第二の主たる女の悠然とした笑みを前に、テアは狼狽する。

「さて、そんな訳だから。ここは主の我儘に付き合ってあげたらどうかな?」

 愉しげに目を眇めたアドリアナは、指先にあった砂糖菓子を、戸惑うテアの舌先に放りこんでみせた。

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