Chapter 3




 銀鉱都市ディロナ――セルベル邸。
 夜を潰して吹き荒ぶ風に遊ばれるままの粉雪が、窓を白銀の幕で塞ぐ。机上にある蒸留酒を詰めた酒瓶に、ゆらめく暖炉の火の残像が刻まれた。夜を鎖す風の音は悲鳴のようで、時折、遠雷の轟きと絡み合い、銀鉱都市を殴りつける。執務机の男が酒瓶に手を伸ばした。扉の前に立つ青年は指先から這い上がってきた冷気に顔をしかめる。酒瓶を傾げ、男は酒を舐めた。

「再度、教皇から要請があってな。しかも、前回と一文字も違わず、だ」

 扉の前で震えるリオは諦観をもって天井を仰ぐ。

「今は、まだ、こちらからの使者が使者の務めをまっとうできてはいるのですね。しかし、いつものことながら、仮にもディロナ市長とあろう御方がそんなことを漏らしてもかまわないのですか?」
「酒の勢いだ」

 泰然と笑むエリクに、リオは大仰なため息を吐いてみせた。

「かしこまりました。ここでの戯言はなかったことに。酒に溺れた者との会話ほど不毛なものもありませんからね」
「随分と口が悪く育ったものだ」
「兄さんたちの影響ですよ。その兄さんたちは父さんの影響でああなった、と」

 瞼を落として笑みをたゆたわせる末子に、父は苦笑した。
熱なる光をゆらめかせる暖炉で薪が爆ぜる。

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