Epilogue




 簡素で何の変哲もない木枠の窓から薄暗い室内にやわらかな陽光が迷いこんでくる。それは板張りの床には鈍い光沢を、その部屋の奥に置かれている寝台には細い光の道筋をもたらした。

「大傭兵殿は?」

 寝台に横たわったままの素肌よりも包帯の方が目立つ男が、窓を背に佇んでいる男に問う。問いを投げかけられた男は、寝台脇に置かれた棚の上の金縁眼鏡を見遣りながら、先刻自分の来訪に無理に身を起こそうとしたその眼鏡の持ち主を半ば脅すように寝かしつけたことを思い出した。

「勝利の英雄オルトヴィーン・ヴァースナー氏なら貴殿の代わりに喝采に囲まれてそれはそれは居心地が悪そうだ。まだ簡単には身動きが取れないだろうな。その証拠に、ここ数日、図らずも官舎に缶詰だ」

 近衛兵の長たるその男は、あえてふざけた調子で答えてみせる。その物言いに、寝台に横たわる男が息だけで微笑する。

「花を」

 淡くぼやけた光が流動し沈みゆく中に、脈絡もない単語が紛れこむ。

「ガートナー隊長と、リヴェロ殿に」

 不可解さに眇められていた蒼の目に、ふたつの名が持ち出された途端、やわらかな諒解の色が蕩けた。男は身を屈め、身動きの取れない怪我人に穏やかに語りかける。

「いいから休め。小難しいことは満足に出勤できるようになってから考えろ。すべてはそれからでいい」

 花ならば、私が手向けておくから。
 そのささやかな約束はぼんやりとした光の粒子に融け、ゆるやかな静寂に透けていった。

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