Chapter 5


◇◆◇◆◇◆◇

 そのまろさが肌に心地よく陽光を反射して煌く細やかな水の粒子が舞い踊る、豊かに溢れるきらきらしい水が柱となり乱舞する噴水。その噴水を中心として白亜の建造物が円形に並ぶ帝都第三層中央広場。
 蒼穹は晴れ渡り、弓なりの空では目に眩しい白の雲が遠くの稜線にぼやける。
南北を峻厳たる岩山に挟まれ、東西に広大な平地が広がるシュタウフェン帝国帝都――ティエル。皇帝の居城が置かれているこの帝都が反皇帝を掲げる諸侯連合軍――自らの正統性を主張するためか、彼らは自らをシュタウフェン帝国初代皇帝の名を冠しアウグスト同盟と名づけた――に包囲されたのは、ファウストゥス暦422年初秋のこと。
 中央広場を埋め尽くすのは数ヶ月の籠城を耐えたひとびと。昨日の勝利と解放の興奮冷めやらぬ様もそのままに、なけなしの葡萄酒で祝杯を満たし、乾杯を交わす。
 両脇に幾本もの柱が並ぶ白亜の回廊。漆黒を纏うひとりの女が、回廊の先に見える蒼穹の色をした陽光の差しこむ場所へと、靴音を響かせながらゆったりと歩を進める。
 吹きこむ風に運ばれてくる漲る活気とともすれば羽目を外してしまいそうな浮いた熱とを感じ取ったその女は、蒼穹を目前とし、足を停める。傍仕えの者が不思議そうに首を傾げる中、女は瞼を落とし、ほのかにかすかに――硬質さと清廉さのみが目立つ常の微笑よりもどこかやわらかく――満足そうに、笑んだ。
 包囲完了から約半年後にあたるフェブルアリウスの月の第15日、約半年に亘る籠城の末もはや陥落間近と目されていたこの都市は、周辺諸国の予想を裏切って息を吹き返す。
 ゆっくりと、女は瞼を持ち上げる。陽光に曝されゆく長い睫毛に縁取られたその目は、どこまでも澄み切った、透明なだけの抜けるような蒼。
 再び歩を進め始めた女が向かうのは、天空からの祝福のごとき陽光に満ち満ちた白亜の中央広場を一望できるバルコニー。そこに女帝が姿を現すと同時、風にその緑髪を散らされながら凛として立つ女帝を目にした中央広場に収まりきらないほどにその場を埋め尽くすひとびとの勝利を確信し安堵と興奮が綯い交ぜになった歓声が湧き起こり。
 ひとびとの身体の奥底から発せられる地を震わせるほどのその声は、抑えきれぬ熱とみずみずしい歓喜とを孕んだまま、高く澄み切った蒼穹に散じていった。

- 183 -



[] * []

bookmark
Top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -