Chapter 5




 帝都の東、凍てついた巌を降るのは蜜蝋の虹彩を持つ山岳民族。帝国軍旗をはためかせ疾駆するシルウァ族とヴァルター・ヘルツォーク麾下の一隊が諸侯連合軍に雪崩れこみ、カトゥルス・アクィレイアは迎撃を、オルトヴィーン・ヴァースナーとウォルセヌス・アクィレイアは更なる攻撃を命じる。
 帝都の西、泥濘と化した耕地にて展開される惨劇。折れた槍が甲冑を貫き、落馬した鎧が泥に埋もれる。市民軍が後援についたとて近衛軍の劣勢が変わることはなく、振り下ろされる剣を弾き返し馬上にて身体の均衡を崩しかけたヨハン・ラングミュラーの前に疾風のごとく滑りこんだ二本の剣を操る傭兵が周囲の敵兵を薙ぎ伏せながら近衛軍の指令に背中を預けた。

「ご親切にどうも」

 皮肉なのか謝辞なのか判然としない軽薄さで、ラングミュラー。

「我が軍の支柱は護らねばならないからな」

 親しい者であるのなら、このフレデリック・リヴェロの皮肉めいた声音の奥底に潜む照れに苦笑したかもしれなかった。
 繰り出される馬上槍を回避しながらラングミュラーは的確に急所を突いてゆく。

「命を下してやれ」

 麾下の兵に、苦難をともにする同胞に。
 この苦難の終焉に向けての、進むべき道を。
 リヴェロのこの提言に、返り血に染まり切らぬ蒼の目をもって、

「解っていますよ」

 傭兵に後背を預けたまま、自らを囲む敵兵を見据えながら、ラングミュラーは揺らぐことのない意志を表明する。
 帝都の東、帝国軍の急襲に瓦解しかける陣形を建て直すカトゥルス・アクィレイアに、勢いづいたオルトヴィーン・ヴァースナー率いる市民軍が猛攻をかける。それに呼応する形でウォルセヌス・アクィレイアが兵を展開。諸侯連合軍は退路を断たれた上に包囲されたまま、正面から帝国軍奇襲部隊と市民軍の攻撃を受けることになった。

「見事なものだ」

 異母弟の用兵手腕にカトゥルス・アクィレイアは賞賛の吐息を零す。そしてわずかに眼を上げ、

「だが、我らとて足掻くのだよ」

 泰然と、笑んだ。

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