Chapter 5




 帝都の東、蒼穹の下。閉じられゆく鉄扉の前、剣や槍や鋤や鍬を手に居並ぶのは、まちまちの装いで身を飾る兵たち。

「恐れるな!」

 と、馬上にて彼らの前を駆け抜けるオルトヴィーン・ヴァースナーが声を張り上げる。

「あたたかい食事と安心して眠れる夜を取り戻したいのだろう?」

 手にした剣はきらびやかに陽光を弾き、何ものにも揺らがない自信と包容力とを兼ね備えた太い笑みがその顔を彩る。

「長きに亘る辛苦の、今日が最後の日だ。心の底から今までに溜まった鬱憤を吐き出し、思うがままに暴れ回ってやれ」

 帝都の西、城門の前。銀糸にて帝国紋章が縫い取られた紅の旗を掲げ、夜明けの陽光を背に隊列を組む近衛騎士たちの視界を馬の吐く息が霧散しながら白く流れてゆく。
 西の城門において近衛軍を率いるのは、近衛軍帝都駐留部隊副長ヨハン・ラングミュラー。剣戟とは無縁な印象しかない金縁眼鏡の気弱そうな男が、馬の手綱を握り、長期に亘る籠城においても生き残った耕地をわずかに眇めた蒼の目に映す。
 夜明けのこの時刻、城塞都市の影となる帝都の西で。遠く、帝都の蒼い影に降り注ぐ神々しいまでの日脚と澄み渡った大気に似つかわしくない土埃を捉えたラングミュラーは、

「来ますよ」

 と、心底不愉快そうに眉根を寄せた。
 帝都の東における先鋒となった近衛軍帝都駐留部隊隊長エセルバート・ガートナーによるカトゥルス・アクィレイア率いる諸侯連合軍の分断は、連合軍をふたつに裂き、その周囲をウォルセヌス・アクィレイア率いる帝国軍とオルトヴィーン・ヴァースナー率いる市民軍によって徹底包囲するものと見えた。
 だが、ここで帝都側にとってひとつの誤算が生まれる。

「近衛軍帝都駐留部隊の総指揮権をヨハン・ラングミュラーに委譲する」

 尚、帝都の東における隊の指揮系統は一時的にウォルセヌス・アクィレイアに移譲。
 後方にて戦況を俯瞰していた近衛軍長官ロバート・ベルナールがこう決断するに至った文字通り血路を切り拓いたエセルバート・ガートナーの壮絶な最期は、近衛軍よりも先に彼の近衛兵に全幅の信頼を寄せていた者たちが多い市民軍に動揺を走らせた。
 結果、市民軍の一部が瓦解。その隙を突いた連合軍が帝都に肉迫する。

- 173 -



[] * []

bookmark
Top
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -