Chapter 5
「蒼穹を至尊とし、理を至高とし、それらを体現せんと希求して駆け、眠りを得たこの者たちに――貴女の子等に、天空への門扉を開け放ち給え。穏やかなる眠りを赦し給え。安寧の腕を与え給え。救いを齎す赦しを、慈雨の如き祝福を、どうか、与え給え」
誰もいないその場所でひとり祈りの言葉を紡ぐのは、プラチナブロンドの髪の小柄な青年。
仄暗い大聖堂に踊る灯火は音もなくゆらぎ、聖像に捧げられた蜜蝋の甘い香が凛冽たる大気に混じる。天秤と剣を手にした女神は衣装を整えられ床に横たえられた騎士たちの骸にその眼差しを向け、天窓より降り注ぐ斜陽の陽光が至尊のその身を濡らしていた。
聖像を背に灯された蜜蝋を横に立つ大司教は小さく息を吐き、疲れたように瞼を落とす。
じじ、と、蜜蝋の芯の焦げる音が大気を揺らした。
気だるげに持ち上げられた瞼とわずかに傾げられた首。蜜蝋の炎のゆらめきに、頬に落ちる長い睫毛の影は揺れ、硝子玉のような淡い藍の目は時に鮮烈な紅を宿して一点を見つめる。
「祝福など、与えないと言っただろう?」
抑揚のない平坦な声音はただ耳に心地よいだけでそれ以上のものではなく、表情の抜け落ちた顔はただただ彫像のような硬く重い冷ややかさだけを貼りつけていた。
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