書き仕事をしているとまあるいまあるい月を背にして窓から一人の男がふわりと入ってきた。
「燕青‥‥‥それ、どうしたの?」
綺麗で柔らかそうなすすきを片手に一杯抱え込んでいる燕青はニカッと笑い子供のように答えた。
「もちろん採ってきた。州牧邸から」
呆れたように口を開こうとしたら大きくて温かい手と共に何かを口に押しこまれた。
「むぐ‥‥‥」
「お月見しよーぜ」
月見団子だった。室から出てすぐにある縁側に二人で腰掛ける。
「そんなにたくさんどうするつもり?」
すすきを指差して笑いながら聞くと燕青は床に投げだしたそれを見て、どーしよーか?と笑った。
「やー、ただ綺麗だったからまとめて採ってきたんだけど‥‥‥どーすっかなー」
「また州牧邸に返してきたら?そうすれば州府がすすきだらけにならないで済むし」
燕青の持ってきた月見団子をもう一つ頬張る。
今夜は本当に月が綺麗だ。
「じゃーそーするか。今から行こうぜ」
「見事にすすきだらけねー」
州牧邸はすすき屋敷と呼ばれてもいいくらいすすきが生えていた。
「まあいーじゃん。綺麗だし」
燕青はそう言って持っていたすすきを放り投げた。きらりと光が反射する。
二人で月を見上げていると急に燕青がくっついてきた。
「‥‥‥なによ」
「いや、風が冷たくて寒いからさー」
確かに秋の夜風は少し冷たい。自分の指先が冷えているのに気がついて手をひっこめる。
「なんで手ひっこめんの?」
「冷たくなってるから寒がってるあんたに触ったらかわいそうかなーと思って」
燕青はしばらく黙りこんでから口を開いた。
「右手、出して」
言われるままに右手――燕青側のほうを差し出す。
「え、燕青?」
そのまま手を握られさらにくっつかれる。
繋いだ右手とくっついているところから燕青の温かい体温が伝わってきた。
「俺、あったかいだろ?」
隣で優しく微笑まれて思わず頬を染める。
「おっ顔赤いぞ」
今度はニヤリと面白そうに笑ったのを見て彼は確信犯なのだとわかった。
「あっ、あったかくなったからよ!」
「へー」
隣で笑っている燕青に悔しくなって思いきり抱き着く。
「わっ、おまえ」
「あらー?今度は燕青が赤くなってるわよ」
顔をあげれば赤くなっている燕青と目があった。
「「ぷっ」」
そんな自分達がおかしく思えて二人で思いきり笑った。
「なあ」
くっついてるせいで、
「んー?」
体中から互いの体温が伝わってくる。
「来年の十五夜も晴れるといーな」
だけど心は、
「うん」
もっともっと温かい。
あなたの温かい体温を決して手放ししたりしないから。
だからまた、来年も
「お月見しよーな」
「お月見しよーね」