「あのさー蘇芳ってあんたが思ってるほど綺麗な色じゃないよ」

俺が拗ねたようにそういうと目の前の少女は「そーなの?」とあっけらかんと笑った。

「それに俺もあんたが思ってるほど良いヒトじゃないよ?」

「‥‥‥ねえタンタン。あのお月様見てどー思う?」

突然の話題転換に目を丸くしつつも暗い空にぼんやりと浮かんでいるまるい月を見た。

「フツーに綺麗だけど」

視線を戻すと少女はまだ月を眺めていて、ふふ、と笑った。

「月の表面てね、穴だらけなの。ボッコボコなの」

「はあ?」

影が蟹みたいに見えるでしょ?と問われもう一度よく見るとなるほど、蟹だ。

「表面がボコボコなせいで蟹が見えるのよ」

「はあ」

「もし月が平らで影が出来なかったらみんなすぐに飽きちゃうと思うの」

こちらを向いた少女は月の柔らかな光とともに微かに微笑んでいて、思わず、見とれてしまった。

「蘇芳だって暗くて淀んだ赤でいいじゃない。綺麗な色は見目はいいけどすぐ飽きちゃうわ」

「‥‥‥そーゆー見方もあるね」

「だから、私はタンタンが良いヒトじゃなくても構わない」

軽い口調とは裏腹に、少女の表情は深くて、優しくて。

「ありがと」

俺のほうが年上なのに、子供な気がして少女の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「どーいたしまして」

照れているのか少し目を逸らした少女は年相応だった。



綺麗なだけじゃつまらない、か。

それってさあ、

「君の事じゃん?」

ねえ、気付いてる?



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