傾いた日はとうに落ちていたけれど、空は明るい。夏独特の、爽やかな夕空。昼でも夜でも無い、そんな時間。
暑さと日差しで買い物も億劫になるような昼間はどこに行ったのか、今は涼やかな風がまとめきれなかった顔の横の髪を揺らしていた。
「今年は大丈夫だと思ったんだけどなあ」
空を見上げて、ため息をつく。店終いぎりぎりの時間に駆け込んだにも関わらず、八百屋の女将さんは笑顔でオマケまでつけてくれた。野菜の入った籠を持ち直そうと動かした瞬間、その籠が腕からするりと抜けていった。
「なっ!」
ひったくりかと思い慌てて顔を上げると、そこには見知った男の見知った笑顔があった。
「ったく、おどかさないでよね」
「悪い悪い」
悪びれた様子も無く「あはは」と笑う彼につられて、ため息混じりの苦笑が零れた。
「今日は茄子に瓜に生姜‥‥‥?」
籠を覗き込みながら首を傾げる燕青に今日の献立を告げる。
「麻婆茄子に、瓜と生姜の浅漬け」
「肉はー?」
「借金漬けのくせして贅沢者!食べたいなら自分で取ってきなさいよ。味付けはするから」
口を尖らせる州牧をどつきながら、裏戸を開けて勝手知ったる州城の厨に入る。
「運んでくれてありがとう」
「おう」
「支度が出来たら呼びに行くわ」
「えー。このままメシにしない?七夕だし」
「しーなーい。仕事を怠けてたから二人は神様に怒られて引き離されたのよ?」
「へいへい。んじゃ、もう一踏ん張りしてきますよっと」
ふいに燕青が背中を曲げて、影を作った。そのまま影が濃くなって来たので恐る恐る目をつむる。未だになれない。
それから、吐息が少しだけ睫毛にかかった。
「‥‥‥へ?」
おでこに、柔らかい感触。よっぽど間抜けな顔をしていたのか、ぷっと燕青が吹き出した。
「なに、期待してたのか?」
唇をそっと武骨な指が撫でていって、同時に自分の頬がかっと赤くなるのが分かった。
「ば、ばかーっ!とっとと仕事に行きなさい!」
へらへら笑いながら走って出て行った燕青が途中で止まって、わざわざ振り返って手を振ってきた。
無視出来ないどころか、でかい図体の男相手に「可愛い」と思ってしまう自分は、いよいよ末期かもしれない。
七夕にかこつけて、夕方