月華は空になった洗濯籠を持ち上げた。今日も相変わらずの晴天で、あちらこちらで桜が淡く白く染まっていた。夜は冷えるけれど、空気はすっかり春の匂いだ。
そういえば裏庭には大きな桜が植えてあったはずだ。きっととても綺麗だろう。
そう思って足を運ぶと先客がいた。しかも寝転がって。
「燕青、おはよう」
「おはよー」
昼寝にはまだ早い。なのにどことなく眠そうな様子に首を傾げると、燕青はずるずると体を起こした。
「昨日ちょっと遅くまでやっててさ、さすがの俺も寝不足」
「じゃあ毛布でも持って来ようか?」
「いや、」
ぐい、と腕を引かれてよろける。ぺたんと地面に膝をつくと燕青がにっかり笑った。
「膝枕して?」
「え‥‥‥するの?」
「するの」
「ぶっちゃけ膝枕って気持ち良くないでしょ」
なんか硬そうだし、第一枕にするには高すぎるんじゃないだろうか。
「ははーん、月華、膝枕してもらったことないだろ」
もちろん無い。
「それにな、おまえにひざ枕してもらってる、ってのがいいの」
燕青は時々さらっとこういう恥ずかしいことを言う。言われるこっちはいたたまれないやら恥ずかしいやら嬉しいやらで忙しいのに、あっちは飄々としてるもんだから、少し悔しい。
「‥‥‥分かったわよ、はいどうぞ」
おとなしく正座になると、燕青はごろんと横向きになった。そしてそのまま月華の腰に手を回してお腹に顔を埋める。
「月華」
「なーに?」
「‥‥‥呼んだだけ」
ふふ、と思わず笑みがこぼれる。なんだか甘えっ子みたいだ。
少しぱさついている髪を撫でながら、顔を上げる。
満開の桜が風に吹かれていた。淡い色合いに、心が落ち着いていく。
幹にもたれ掛かると、燕青がくいくいと自分の髪を引っ張った。
「?」
燕青が寝込んだまま体を回転させて、向かい合うかたちになる。
「‥‥‥桜、綺麗だな」
「うん」
「月華、」
とろんとした目で燕青が呟く。ちょっと可愛い。
「好きだよ」
「‥‥‥私もよ」
「うん、知ってる」
子供のような笑顔でまた燕青が髪を引っ張った。
だんだん顔が近づいて、お互い目をつむる。
燕青の腕が伸びてきて、長い間月華を離さなかった。
口付けをする度に、さっきまで落ち着いていた心がふわふわして、飛んでいきそうになる。
燕青が口唇を離す直前に、ぺろりと舌を出した。一瞬触れた生温かい感触に心臓が飛び跳ねる。
「可愛いな」
「なっ、」
燕青の言葉に自分の頬が赤くなるのが分かる。
幸い目を閉じてしまった彼には見られなかった、と思う。
「あー、いい夢見れそう」
「‥‥‥おやすみ」
だんだんゆっくりになる燕青の呼吸が、とても心地良かった。
呼吸さえ愛しい