『囁いて、触れ合って。確かなものではないかもしれない。だけど、「愛してる」』






鼻の奥がつんとする。風がそよそよと流れて、髪がくすぐったい。
絳攸は真っ直ぐこちらを見つめていた。
初めてあった時から変わらない、瞳。

「‥‥‥俺からも聞く。おまえにとって俺はどういう存在だ?」

「‥‥‥聞くの?後悔するかもよ」

絳攸は些かも躊躇わず、是、と答えた。

「私にとっての絳攸は、とってもとっても、大切な存在。出会った時から今まで、ずっと、特別」

特別だった。時に、藍家を棄ててもいいと思ってしまえるくらいに。

「絳攸が一番なの。私は、絳攸。あなたを、愛してる」

誰よりもね。

絳攸は細い、しかし少しごつごつとした手でそう言った月華の頬を慈しむように撫でた。

「泣いている」

「気のせい」

透き通った水滴が絳攸の手をたどり、腕に、肘に、心に絡まる。

「‥‥‥俺には、黎深様が絶対だ」

「知ってる」

頬を優しくなぞる手の感触に、月華はゆっくり目を閉じた。

「おまえが俺を一番に想ってくれているのに見合うだけのものをかえせないかもしれない」

「‥‥‥最低」

拗ねたように言った彼女に目を細める。

「でも、それでもいいなら‥‥‥俺の側にいてくれないか?」

月華はやんわりと絳攸の手首を掴み頬から手を離した。

「それは‥‥妹として?友人として?それとも、恋人として?」

「最後のヤツだ」

綺麗な、瞳〔め〕。

絳攸の肩に頭を埋める。
俯くとまた、水滴が零れ落ちた。

「側に、いさせてくれるんだ‥‥‥」

「ああ」

搾り出すように零した言葉に力強く頷く。
焦れったいような速さで手をそろそろと月華の震えている肩に這わせる。

「側に‥‥‥いてくれ」

キュ、と優しく小さな肩を抱き寄せた。
柔らかさとふんわりした匂いに、これ以上速くなるはずのない鼓動がまた速度を増した。

「絳攸‥‥‥」

「なんだ」

「最低って言ったけど、アレ、嘘」

「‥‥‥」

「絳攸‥‥‥」

俯いていた顔を上げ、月華が涙を零しながらふわりと笑った。

「大好き」

嗚呼、そんな顔されたら目が離せなくなるじゃないか。

初めての感情。

そっと浮かび上がってきて大きくなる。

この感情に、まだ名前はつけない。

「‥‥俺もだ」

けれど、本当はどんな名前か知っている。







誰かが言っていた。

『隣同士で座る時、開いた距離がその人への心の距離なんだよ』





俺はいつの間にか、月華のすぐ隣〔そば〕に座っていた。





出会った時から

初めて会ったのは

好きだった

偶然だったと思う

真摯過ぎる瞳は

ただ、確かに俺を見て

いつも真っ直ぐで

微笑んだ

淀んだ瞳しか見てこなかった

真っ直ぐ射抜く瞳を

私には

見つめかえせば

眩しくて眩しくて

のらりくらりと避けられて

気がついたら

それが何故だか

好きになってた

気になった

人はこれを一目惚れだと

その感情がなんなのか

そう、言うんだろう

わからなくて

自分でもそう思う

その時は目を逸らした

だけど

だけど

会う度に、話す度に

積もっていくのは

夢中になって

嫌でもわかって

追いかけて来た

また一歩後ずさった

でも、今

それでも俺は

やっと追い付いた

走れなかった

ゆっくり、腕をのばす

掴まえてくれることを

つかまえた、追い付いた

期待してた

振り払われた

でも、間違えた

でもね、その後

それでも

掴み直してくれた

赦してくれた

右を見上げたら

左を向けば

優しく、指を搦め捕られた

ふんわりと、微笑まれた



ねえ、ずるいよ?

まいったな‥‥‥


そんな事されたら

そんな顔されたら















見つめずには、いられない





fin.




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