「え、なに、無視ですかコノヤロー」
「※、*□、∴£●※⊇♂%◎〒∀」

「はあ?銀ちゃん朝からなにふざけてんの。ジャパニーズプリーズ?」

まったく、一番遅く起きてきたと思ったら朝から訳分かんない言葉を使ってさ!
始めは無視してたけど耐え切れなくなってついうっかり反応しちゃったよ。

「ふざけてんのはおまえだろ?」
「◇⊃∠∽†&◆刀蛛*□?」

「‥‥‥新八くーん、銀ちゃんが変だよ」

もうこれどこの国の言葉だよ、手に負えないよ。
困って新八のほうを見ると、なぜか新八まで困ったような顔をしていた。

「えーと‥‥‥普通じゃないですか?」

春さんこそ銀さんに何かされたんですか?
と、首を傾げられた。

「何言ってるかわかんないの‥‥‥え、もしかして私だけ?」

「え?まじで分かんないの?」
「∩?∵¶∴£●※⊇♂%?」

「ちょ、ちょっと待って。いま銀ちゃんなんて言ったの?」

「『え?まじで分かんないの?』って言ってました」

銀ちゃんを見ると、こっくりと真顔で頷いた。えっと、これ、ほんとに私だけが分かんなくなってるの?

びっくりし過ぎて動けずにいると、トイレから帰ってきた神楽ちゃんに銀時が話しかけた。様子を見ている限りでは言葉は通じているみたいだ。

「おい貧乳通じねーのおまえだけだぞ」
「◎〒∀@■∂∫◯§△〓∇∬☆▲∈」

あ、なんか今悪口言われた気がする。とりあえず銀ちゃんの足を踏んでからカレンダーの前に立つ。

「神楽ちゃん今日悪ガキどもと野球するんじゃないの?」

「そうアルけど」

「新八くんはトイレットペーパーの安売り」

「え?まあそうですけど‥‥‥」

行っといでよ、と言うと二人とも目を丸くした。ちなみに銀ちゃんはTKGいわゆる卵かけご飯をすすっていた。

「とりあえず私は暇な銀ちゃんと病院行ってくるから」

「は?オレ?」
「Å?煤噤H」

「でも春をほっとけないアル!」

「ま、いいからいいから」

戸惑う二人の背中をぐいぐいと押す。

「はいいってらっしゃーい」

「え、ちょっ、」

手を振って玄関を閉めて、ついでに鍵もかける。よし、これで入ってこれないな。そのまま扉に手をついて息を吐く。

「おいおいどーすんだよ、通訳二人とも追い出しちまって」
「▽∋≒‰▼⊆♯凵縺ャ、煤§△〓∇∬☆★▽∠∽†&」

「なに言ってるか分かんない!」

後ろから聞こえた呆れたような声は相変わらず意味不明だ。銀ちゃんの顔を見ないようにして和室に駆け込む。頭の中がごちゃごちゃする。誰かに八つ当たりしちゃいそうで、そしてその誰かを万事屋の誰かにしたくなかった。





「出てこーい。病院行くんじゃねーのかァ」
「刀ケ∵‡*。□¶@■⊃†∴£●◇⊃∠」

「‥‥‥」

どうしよどうしよどうしよ!ほんとのほんとに銀ちゃんの言ってること分かんなくなっちゃった!
夢?これ夢なの?いや夢だよね、そうでなきゃこんなことありえないもん!

夢なんだから寝れば覚めるはず。寝直そうと銀ちゃんくさい布団にくるまる。この際着物が着崩れするとかそんなことは気にしない。

すっと襖が開いて、布団の主が枕元にあぐらをかいて座った。じっとりとした視線を感じたけれど、気付かないふりをして背中を向けたままにする。

「病院には行かないよ。意味ないから」

きっとお医者さんだってこんな症状分からないと思う。まずどうやってこの状況を信じてもらえばいいのか。

「銀ちゃんもどっか出かけてきていーよ」

「‥‥‥」

ばりばりと銀髪をかきまわす音が聞こえる。喋らない銀ちゃんにちょっとだけ苛立って、体を起こしてから向き直る。

「銀ちゃんは私の言ってること分かるんでしょ?出かけるなりテレビ見るなり好きなことしてていいってば」

「‥‥‥」

睨みつけても無表情のまま返事もしない。逆にじっと見つめられて、こちらが目を反らす。

「どっか、」

その視線のせいか、自分でもよく分からないまま頭に血が上る。なんでよ、一人にしてよ。じわりと涙が浮かんだ。

「どっか行ってよ!」

みっともなく声が震えた。こんな嫌な私は見せたくないのに。

「うっせェ。好きにしろって言うから好きにしてんだよ」
「∽†&◆。刀蛛*□∩∵¶∴£●※⊇♂◎〒∀@■」

やめてよ。何言ってるか分かんないよ。怒ってるの?呆れてるの?無表情のまんまじゃ分かんないよ。

「分かんないよ‥‥‥」

ひくりとしゃくり上げると引き締まった腕が伸びてきて私を抱き寄せた。あったかい。

「ちょっと落ち着け、な?」
「∫◯§△〓∇∬☆、▲?」

相変わらず何を言ってるか分からない。でも、体に直接低く響く声はいつも通りで、いつも通りに優しかった。そのせいで目頭はどんどん熱くなって、涙がじわじわと溢れてきた。めそめそと泣き始めた私の背中を、温かい大きな手がぽん、ぽん、とリズムをとって叩く。

「一生このままだったらどうしよう」

「別にいーじゃねえか」
「∈%▽∋≒‰▼⊆♯」

「夕飯の相談もできないの?」

「‥‥‥な、ほんとに俺の言ってること分かんねーの?」
「‥‥‥〓、∇∬☆★▽∠∽†&◆※Å煤嚊刀ケ∵‡*?」

少しだけ体を離して銀ちゃんが私を見ながら喋った。やっぱり意味不明。首を傾げると銀ちゃんはぱちぱちと瞬きをしたあとごくりと唾を飲み込んだ。

「えーと、いつもは言わないけどォ」
「□¶@、■⊃†∴£●◇⊃∠◎〒」

「何言ってるか分かんないよ‥‥‥」

「いいからちょっと静かにしてなさい」
「■Θ√℃#◎§∃▽%◆※‰♭▲$」

相変わらず意味不明なまま、銀ちゃんが唇を重ねてきた。子供同士のスキンシップみたいな、触れるだけのキス。

「オレまじでおまえのこと好きだから」

「っ、」

‥‥‥やばい。息が詰まった。急に銀ちゃんの声がクリアに、そしてちゃんと日本語で聞こえた。

「いつもちょこちょこ動いてて働き者だし?」

「‥‥‥」

「笑うとかわいいし?」

「!」

「まあ笑わなくてもかわいいけどな」

「!!」

「いつも側にいてくれてありがとな」

銀ちゃんにしては珍しく邪気のない、にっかりとした明るい顔で微笑まれる。

や、や、やばい!頭に上ってた血が顔に集まるのが分かる。耳まで熱い。
あまりのことに口をぱくぱくさせた私を不思議そうに見ていた銀ちゃんが、私の顔色を見て、黙り込んで、そして同じように顔を赤くした。

「てめっ、ま、ま、まさか」

「ごごごごめん途中からなんか急に分かるようになった!」

「いいいいつから!?」

「お、『オレまじでおまえの』」

「分かったもういい!っていうかなんで急に治ったんだよ!」

「なんでだろ‥‥‥あ、」

「あ?」

「さっきキスしたでしょ」

「あ、あー、まあ」

「アレだよきっと」

「‥‥‥アレでえェェェ!?そんな白雪姫みたいなオチでいいのか!?いいわけねーだろ!」

「銀ちゃん!」

「おわっ、」

叫ぶ銀ちゃんに飛びついてキスをする。あんなこと言われて嬉しくならない私がいるのか?いやいない!はい出ました反語!

「全世界の王子という王子に失礼なくらい王子っぽくないけど私も銀ちゃんのこと大好き!」

「おいなんか悪口混ざってんぞ」

「褒めたの」

「まじで?」

「まじで!」







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