本当は気のせいなんだろうけれど、なんだかいつもよりも暑く感じた。ベッドに横たわってみるものの、すぐに目を開いてしまう。腹部に乗せた手が、じんわりと熱を持って少し湿り気を帯びた。
起き上がって部屋を出る。通路のほうが、心なしか涼しい。ただ立っているのもおかしい気がして、レバーを握って展望室へと進んだ。
消灯時間だったので、明かりは着いていない。隅にあるベンチに、膝を抱えて腰掛けた。抱えた膝や、それを掴む手はやっぱり熱い。けれど、肩や背中はうっすらと寒さを感じ取っていた。ひとつ、くしゃみをする。途端に、鳥肌が走った。
「誰かいるのか?」
何故だろう。悪いことをしているわけでもないのに、咄嗟に息が詰まった。そのまま返事もできない。相手もそれきり何も言わなくなってしまった。たぶん、まだそこにいる。なのに、どうしたことか。
どれくらい経っただろう。相手がゆっくりと歩き出した。窓のギリギリまで進み、止まる。船外の明かりに照らされた横顔は、見慣れている顔で、見たことのない表情だった。いつもよく回る口は、それが当り前というように閉じられていた。くるくると動く丸い目は、眼鏡の下でつまらなそうに星々を眺めていた。なによりもその気怠そうな雰囲気に、余計に身動きが取れなくなってしまった。
何もおかしいことはない。彼だって戦闘員だ。何も考えないわけがない。それでも、初めて見る姿に、もう暑さだとか寒さだとかを感じなくなっていた。
ふと、彼の視線が動いた。少し期待した。でも、その視線は私を捉えても驚きもせず、一瞬の間を置いて笑った。
「なんだよ、いるなら返事くらいしろよ」
「う、ん。ごめんごめん」
「何やってんの?」
「……腰が、抜けた」
「腰が抜けたぁ?」
そこでやっと、いつものようにぶつぶつと小言を言いながら近づいてきた。ほっとして、きっとへにゃりと情けない笑顔を浮かべていたと思う。
「ほら、手、貸してやるから」
「後で返すね」
「なんだよそれ」
小さく笑い声をあげた彼の手を掴む。ああ、これはずいぶんと、
「冷たいね」
「熱いなあ」
立ち上がったことで私の顔も照らされる。なんだか明かりの下にいるのがずいぶん久しぶりな気がする。
「スルガ、あの」
「なに?」
「どこにもいかないでね」
「……ばっ、おま、な、なに言ってんだよ!」
途端に真っ赤になった彼に、自分が何を口走ったか知った私の頬も熱くなる。
「違う!そういう意味じゃない!」
「だよなあ!」
「だよね!」
違うのだ。そういう意味で言ったんじゃないんだ。今のは目の前の彼にではなく、さっきの彼に言いたかったのだ。
ひとりで、私を置いて、どうか大人にならないでくれ、と。
けれどどうしてもそれを上手く伝えられなくて、ただただ、握ったままの互いの手を、より一層強く掴み直すしかできなかった。