「なっ、何だそれは!」

「ちょっとかすが!あんまり大きい声出さないで!」

「す、すまん…だがなまえ、今のは本当か?」

「私だって嘘であって欲しかったよ…」


あの昼休みの理科室事件からほぼ放心状態で午後の授業を過ごした私を迎えに来たのは、去年同じクラスだった友人のかすがだった
かすがの一撃(頬っぺたにパシーンと)で目覚めた私の眼前には、心配そうな面持ちで私を見つめる鶴ちゃんと、訝しげな顔で「大丈夫か?」と訊くかすがが居て
ほぼ反射的に後ろを振り返ってみたが、既にそこに石田君は居なくて心底ほっとした
それから部活に行った鶴ちゃんを見送って、取り敢えず誰かに話を聞いてほしくてかすがを裏庭に連れ出していた

私の話を一通り聞き終わって「信じられん」というかすがに「それは私もだよ、て言うかむしろ信じたくない…」としか言いようがない
人に話すことで少し落ち着いたとは言え、未だに一体自分がどういう状況に置かれて
いるのか理解できない


「お、やっと見つかった」

「へ?あ…長曾我部先輩…?」


校舎の角からひょっこりと現れたのは、3年の長曾我部先輩
私は直接的には関係がないけれど、生徒会付近でよく毛利先輩と絡んでる所(正しくは毛利先輩に死ねと言われているところ)に何度か遭遇した事がある(正しくは巻き込まれた)ので知り合いになってしまった

ニカッと眩しい笑顔を湛えてこちらに近づいてくる先輩は、どこか疲れた表情をしている
多分また毛利先輩に捕まったんだろうな…
……ん?毛利先輩?


「なまえ、毛利がお前の事探してたぜ?」

「うっわ!そうだ、今日会議あるって言われてたんだった!!」

「相当お怒りだったぜ?
お陰さまで八つ当たりされた俺もこのザマよ」

「それは大変申し訳ない事を…」



やばいやばい
石田君の事で頭が一杯ですっかり忘れてた
長曾我部先輩は笑って「俺の事はいい」って言ってくれてるけど、正直それどころじゃない、毛利先輩何ていってたっけ、確か遅れたりしたら「焼き焦がす」とか言ってなかったっけ?


「かすが…私ケシズミになるのは嫌だな…」

「…諦めろ、今逃げたところで明日ケシズミになるだけだ」

「ちょっと、何でそんな冷たいの!!
そんな憐れなものを見る目で私を見ないで!!」


ヒイイイイどうしよう
今から生徒会室へダッシュするという選択肢がベストな気もするけれど、確か毛利先輩が部活紹介の何とかって言ってた
そうなるともしかしたらその場には各部活の主将達もいるかもしれない、そんな公の場で公開処刑をされるのはちょっと、いやかなりキツイ、私はそこまでドMじゃないし

私がヒイヒイ言っているのを暫く憐れな目で見ていた長曾我部先輩が、「しょうがねぇなぁ」と呟いた

「俺が一緒に付いてってやるよ、毛利の野郎が何かしそうになったら庇ってやっから、な?」

「長曾我部先輩…そんな…悪いです
いつも何でその図体であの華奢メンにフルボッコにされんの、マジねーよってくらい不憫な目に遭ってる先輩を更に巻き込むなんて私にはとても…」

「…お前そんな目で俺を見てたのな」

「でもまぁ盾になって貰えるなら長曾我部先輩でもいいや、お願いしまーす」

「心の声は仕舞っとくモンだぜお嬢ちゃん」


なんとなくまたやつれた様に見える長曾我部先輩と、その先輩を心底憐れそうに眺めるかすがを尻目に、私は先輩の袖を引きずって生徒会室へ向かった






「Ah?元親じゃねぇか、何してんだ?」

「おう政宗、助けてくれ」

「あ、伊達先輩」



先輩を引き摺りながら生徒会室へ向かう為に中庭を通ったら、丁度部活の休憩中だったらしい伊達先輩と遭遇した

伊達先輩とは屋上でよく会う
私は昼寝や昼食に利用するくらいだけど、伊達先輩はいつも何をするでもなく屋上に居るらしい
鳥にでもなりたいんだろうか


「今からコイツが毛利に焼き焦がされるのに犠牲になってくんだよ」

「…よく分からないが、俺にはどうにも出来ないな」

「あれ?伊達先輩って剣道部の部長ですよね?
今日部活紹介の会議があるって聞きませんでした?」

「んな面倒臭そうなモン俺が行くかよ、他の奴に代理で行かせてある」

「…伊達先輩、命知らずですね」


あの毛利先輩の呼び出しに代理を立てるなんて
それも理由が面倒くさいからって…あの人は死に装束に十字架背負って謝りに行ったって許してくれないのに
あぁ、でも伊達先輩は剣道部だし腕が立つから毛利先輩とも互角に渡り合えるのかな
…そうだ、長曾我部先輩だけじゃ頼りないし今からでも援軍を頼もうかな


「なまえ…?」


伊達先輩に援軍を頼もうとした瞬間、私の名を呼ぶ声と共に視界の端に今日一日で随分見慣れてしまった銀髪がチラついた
怪訝な顔つきでこちらに向かってくる彼は、私が毛利先輩の命令を忘れてしまう程の衝撃を与えた張本人、石田三成君だった


「Ah?何の用だ石田」

「こんな場所で此奴らと何をしている?」

「Hey石田、俺を無視すんじゃねぇ」

「また昼寝をしていた訳ではないだろうな?」

「…オイ、テメェ…」


ひたすら伊達先輩を無視して私に詰め寄ってくる石田君が怖くて思わず後ずさった
石田君は胴衣を着ている…それに伊達先輩と知り合いみたい(石田君は他人のフリしてるけど)だから、もしかして石田君も剣道部なんだろうか


「えっと、今から生徒会に行くところで…」

「今朝のあの男の所か」

「いや間違ってはいないけど、そういう言い方はちょっと勘違いを生むからやめてもらえるかな」

「それで何故此奴らが貴様と共にいるんだ」

「いや伊達先輩とは今ここでバッタリ会っただけで…長曾我部先輩は生贄に」

「オイコラ誰が生贄だ」


横で抗議し始めた長曾我部先輩を適当に宥めていると、石田君は今までにないくらい不機嫌そうな顔で、それはもう今にも凶器を何処からともなく出してきそうなくらいのオーラを漂わせて私を睨んだ


「ならば私が供をしてやる
そんな男は置いていけ」

「えっ、石田君が?」


まさかの助太刀提案に思わず目を丸くしてしまう
確かに今朝の様子を見る限り、今この場にいるメンバーで毛利先輩相手に一番頼りになりそうなのは石田君だ
だけど昼休みの件もあって、私は石田君とは距離を置きたい気分だった


ケシズミになるか、石田君と一緒にボス戦に向かうか
選択肢は2つに1つ



「Wait!オイ石田、今は休憩時間とは言え部活中だぜ?
部長の目の前でサボり宣言とは大した根性だな」

「貴様の事など知った事か
そもそも私は貴様が部長だという事実すら認めてはいない」

「何だと…?!」

「だ、伊達先輩!お願い!ちょっとでいいから石田君を貸して下さい!
可愛い後輩がケシズミになるんですよ?いいんですか?」

「…チッ、なまえがそう言うなら仕方ねぇ
さっさと戻って来ねぇと除籍しとくぞ石田」

「フン、勝手にしろ」


一触即発の石田君と伊達先輩をどうにかしなくてはと、思わず石田君の腕を掴んで伊達先輩に石田君レンタルをお願いしてしまった
だって、このままこの場にこの2人を放置してたら惨劇になりそうだったし…

グイグイと石田君の腕を引っ張りながら、出来るだけ早足で中庭から抜けた
…と、その瞬間に自分がかなり大胆な選択をしていたことに改めて気付いた


→石田君と一緒にボス戦


バッと掴んでいた腕を離して石田君を見上げると、石田君は別段何も気にしていないという顔で真っ直ぐ前を見ていた



今日は一体何の日だろうか
異常に長く感じる今日一日も、このボス戦で平和に終わりますようにと祈りながら廊下の消火器の位置を確認して歩いた











友、側に在りて







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