ひらひら舞い落ちるのは桜の花びら
大きく曲がった木の枝から漏れる柔らかな木漏れ陽
そんな美しい風景の中、ベンチに寄りかかって眠っている何とも暢気な少女に近づく影がひとつ


「…もう1年経ったか」


呟く少年は少女の幸せそうな寝顔についた花びらをそっと指先でつまんだ

「今年は私に運が巡ってきたようだ」

つまんだ薄紅の花びらを口元に持っていき、そっとその花びらに唇を寄せた少年は、その冷淡な面持ちとは真逆に熱の篭った視線で未だ何も知らず眠りこける少女を見下ろしていた





桜、舞い落ちて






「なまえっ!なまえ!!!」

「んぁ…うるさいなぁ……ん…?晴久…?」


少し肌寒いなぁと感じながらも春の気候特有の眠気に勝てずスヤスヤと眠っていたのに、妙に焦った大声に起こされ目を開けば見慣れた兄の顔が…

「って近いわ!!」

「ぐぁっ」

超至近距離にあったので頭突きをかましてやりました

「って…何か暗くない…?」

確か私がこの学校の穴場である裏庭のベンチでお昼寝を始めたのは太陽が燦燦と輝く正午頃、2年に進級した始業式のすぐ後だった筈
なのに今私と晴久(頭を抱えて悶絶中)の居るこの空間は妙に暗い、どう見積もっても4時は過ぎてしまっている
え?いくら私がよく友人に「鈍感」だとか「神経太すぎ」と言われるとしても学校の裏庭で、外で、4時間も居眠りできるほどの強者な筈は…

「いや充分兵だよお前は
日の本一の兵だ」

「いやそれ何か赤い人の称号だから
割とその人身近にいたりするから
って言うか何でもない様に人の心覗かないでよ変態」

「仕方ねぇだろ、双子なんだから
それより俺がどれだけ探したと思ってんだまったく…オラ、帰るぞ」

迎えに来てって言った覚えはないんだけど、とは言わずに妙な体制で寝過ぎた所為で凝り固まった身体をほぐしながら伸びをすると、ぱさり、と何かが足下に落ちた

「…?何これ、カーディガン?」

「ん?それお前のじゃねぇのか?」

「違うよ、一体誰の…
って、あ、これ名前かなぁ?」


私が眠りこけている間に誰かがこれを私にかけてくれたらしい
何ていうありきたりな乙女展開、もうちょっと捻れよ作者…あれ?作者って何の事だっけ
とにかく寝ていた私が悪いとは言え勝手に寝顔を拝見されたかと思うと少し胸糞悪い、っていうかこれ男物じゃない、と思っていると成分表示の部分に何か書いてあるのが見えた

「「石田」…?」

「え?お前今石田っつったか?」

「うん、ほらここ石田って書いてある
晴久知り合い?」

ほら、とマーカーペンでくっきり書かれた「石田」の文字を晴久の眼前に掲げると、晴久はあからさまに嫌そうな顔をした

「知り合いっつーか、去年俺のクラスに石田って奴がいたんだよ」

「ん?じゃあその人?」

「いや、何つーかまずありえないな」

「??何でよ?」

「1年間クラスで誰一人寄せ付けない程人間嫌いで、口癖が「斬滅だ」と「斬首してやる」だったな」

「何その人何で逮捕されないの」

斬滅とか斬首って言葉だけで銃刀法違反になってもおかしくないんじゃないの、って言うかそんな素敵な口癖をお持ちの石田さんが私にこんな乙女展開をプレゼントしてくれたんですか?え、普通にありえないよね

「ありえないな、だが俺の知ってる石田はアイツだけだ
お前のクラスとかには居ないのか?今日クラス発表だっただろ」

「そんな事言われても今日クラスメイトになった人なんて覚えて…あ、クラス名簿持ってるんだった」

ベンチの脇に無造作に置いてあった鞄からファイルを取り出して、今日配布されたばかりのクラス名簿を一枚つまんだ

「…」

「何だ?居たのか?」

「晴久が言ってたのって…石田、三成…?」

「あぁ…」

「いるね…ばっちり男子欄のトップオブザ名簿に載ってるよ…」

ファイルから出し切らない内に見えた「石田」の文字に思わず顔面が引き攣る
いやまだこのカーディガンの持ち主がこの石田君だと決まった訳じゃないけど、さっきの晴久の言葉の所為で私の中の石田三成はジェイソンの姿で再生されるようになっている

オイオイ待ってよ華のセブンティーンを迎える高校2年生でジェイソンと同じクラスとか私の人生詰んだな
いやでも待てよジェイソンなら13日の金曜しか出席しないんじゃ…

「そろそろ現実逃避はやめておけ」

「オーケーブラザー
でも…本当にこれその石田君のだったらどうしよう」

「どうしようも何も…まぁまずあり得ねぇと思うが、もしそうだったら俺を呼べ」

「晴久を?何で?」

「決まってんだろ?
なまえに近づきたけりゃまず俺を倒してみろって言うんだよ」

「晴久…何かウザいけど取り敢えずジェイソンから私を守ってくれるならもうぬりかべでも晴久でも何でもいいよ」

「お前が俺をどう思ってるかはよく分かった」


久々に少し逞しく見えた兄にほんのちょっとだけ感動しながら、仕方なく例のカーディガンを畳んで鞄に入れた

立ち上がった私の手を晴久が握ろうとしたので取り敢えず軽く手首をあらぬ方向に曲げておいたっていうのはどうでもいいとして、もしかしたら私はあそこで居眠りをしてしまったが為に随分厄介な爆弾を抱え込んでしまったんじゃないだろうかと今さら気付いた

寝る場所には今後充分注意しよう、うん



「なまえ、お兄ちゃんの手首が凄い事になってんだけど」

「おにぎり食べたら治るんじゃない?」

「ゲームの事は言うんじゃない」








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