遥か後方で未だ覚めやらぬ戦の激しい音が聞こえる
それ程離れていない筈なのに、数里以上離れた場所から聞こえる気がするのは、おそらく聴覚を筆頭に私の中のあらゆる機能が終息へと向かっているからだろう


「みつ…なり…」

ざり、と握り締めた地面にもうどこから流れているのかも分からない自分の血が滲む
先ほどこちらに向かって来た敵兵数人を死に物狂いで倒したまではよかったけれど、気付けば満身創痍になっていた身体ではもう立って歩くことすらままならず、地を這いながら必死に三成の下へと向かった

顔を上げれば、一本道から開けた場所がもう目前に迫っていて、感覚がほぼ無くなった右腕でずり、と今一歩前進すると待ち焦がれた人物が視界に映った

「三成…!」

三成は開戦前に見た時よりも随分ぼろぼろになってはいたものの、生きてその場に膝立ちになって佇んでいた
三成が生きている、それが確認できただけで、もう失せていた筈の生気が返ってくる気さえして必死の思いで腕を動かして前進した

「い、え、やす…」

やっと開けた本陣へ身体を進める事ができたと同時に視界に入り込んだのは三成の足下に横たわる家康の姿だった

あぁ、死んで、しまったのか

三成が生きていた時点で気付くべきではあったけれど、私の思考回路はもう上手く働いてはくれず、動く様子を見せない家康の身体を見て初めてその事実を痛感した

終わった、んだ
全てが、家康の死によって終焉を告げる

視線を三成に戻せば、彼は縋る様に遠い空を見上げていて、その虚ろな目には最早何も映ってはいなかった
青白い頬には痛々しい血涙が流れ、家康を討った刀はその禍々しさを失ったただの鉄くずの様にがらんと無造作に転がっている
今この場には何も無い
私の命も三成の命も確かにまだ息づいているのに、ここには何も無い
何故なら私も三成ももう何も持っていない
生きる希望も理由も、全てが終わった
だけど私はまだ、

三成の下へ動き出そうとするが上手く動かず、限界をとうに通り越していた身体は精魂つきて乾ききった大地へと無様に倒れ込んだ

どさり、と肉体が地面に打ち付けられた音が響くのと同時に三成がゆっくりとこちらを振り返る
三成が振り返りきらない内に、私は誰にも聞こえない声とも言えない微かな声で「ごめんね」と謝罪した



ごめんね
貴方を、助けてあげられなくて

感覚の全てが麻痺していく混濁した意識の中、私を視界に捉えた三成が刹那、悲鳴を上げた気がした













君は僕を救えなかった
ごめん、ね
終わらせる事しか選べなくて





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