「何だよお前…ぐはっ!?」

「手前よくもやりやがったなぁ!!」

先まで嘲笑が聞こえていた外から、激しい物音と人の呻き声が聞こえてきた
思いもしなかった事態に驚いた所為か涙はぴたりと止まり、ただ茫然と何かが起こっている外へ続く扉を見つめていた

「てんめぇ、よくも…っ」

ドガン、鈍い音が聞こえたと同時に薄暗闇を作っていた頑丈な扉がバタリと倒れ、中に光が差し込んだ
いきなり視界が眩しくなった事に目がついていけず、瞬きを繰り返すと、やっとその光の先に立っている人物を見ることが出来た

「さ、きち…?」

それは紛れもなく佐吉だった

光を背負って立っている佐吉の表情は逆光でよく見えないけれど、どことなくその格好がボロついていることや、頬に赤い傷が出来ていることは確認できた
佐吉はそのまま何も言わず私に歩み寄ってきた

「さき…いたぁっ!!」

「馬鹿が!この程度の事で泣くな喧しい!」

佐吉は私の前にしゃがみこむと同時にパシンと私の頭を叩いた
それに何も言う事が出来ない私が目を丸くしていると、三成は自分の服の袖で少し乱暴に私の濡れた頬を拭った

「みっともない顔を晒すな」

「…ごめんなさい」

「自分の身ぐらい自分で守れ」

「…ありがとう、佐吉」

私がそう言うと、佐吉は私の頬を拭っていた手をピタリと止めてどこかバツの悪そうな顔をした

「礼を言われる筋合いなどない
貴様があまりに喧しいから黙らせに来ただけだ」

「でも佐吉、傷だらけ…」

「誰の所為だと思っている
…貴様も秀吉様の為に働く者なら、私如きの手を煩わせるな
せめて私が背を預けられるぐらいにはならんと使い物にならん」

「うん、頑張る!
私、佐吉を守るよ!!」

「私を守れと言ったのではない!秀吉様を、」

「だから秀吉様を守る佐吉が死んじゃわない様に私が佐吉を守るよ!
…もう泣かないから、私、強くなるから!」


薄暗闇の中で泣きながら考えた
此処で死ぬのも悪くは無いかもしれない、と
誰にも必要とされず、邪険にされて生き続けるのならばいっそ死んでしまった方がいいと思った

だけど、私の目の前には影がある
眩い光を背負って私の涙を隠してくれる影が、人が、佐吉が居る

言葉は乱暴で、私を必要だと言ってくれているのでもないけれど、けれど私は思った
恐らく十人以上は居ただろう小姓達に立ち向かって、大人達の冷ややかな視線も気にせず助けてくれて、死んだところで悲しむ人が一人も居ないと言われた私のみっともない泣き顔の涙を拭ってくれる、この人の為になら生きる意味があるかもしれないと

「…フン、勝手にしろ」

「うん、勝手に頑張る!」

涙の跡が残る顔で笑った所為で頬が引きつったけれど、そんな私を気にもせず、佐吉は無言で私を立たせてそのまま歩き始めた


私を、光の中へ連れて行ってくれるのはこの人だけだ
佐吉自身が光なのではなく、むしろ佐吉自身は影の如く闇を背負っている
それでもいい、一緒に歩んでくれるのなら何処にだって着いていく

貴方は私に生きる意味を与えてくれた
私と一緒に歩いてくれた
だから、三成、私を置いていかないで
貴方が居ないと…私は一人では生きる意味を見失ってしまう



夢から醒めた様に過去の記憶から現実へと意識を覚醒させると、そこはやはり見慣れた牢の薄暗闇の中だった

ここへ私を放り込んだのは、今回は三成だ
でも、私は信じてる
きっとまた三成が助けに来てくれるんだ、って
あの時みたいに不器用な優しさで私を光の中へ連れて行ってくれるんだ、って


今はそうやって三成を信じることしかできない
ねぇ、三成、私は三成を信じてるよ、あの時から三成は変わってないって
だって、私は貴方のことが、

















君は僕をを好きになった
あの時からずっと、今も変わらず




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