「お花見、で御座いますか」

「そうだ
なまえも連れて来るようにと、秀吉様直々のお誘いだ」

「それは恐れ多い事で御座いますね
けれどまだ桜には少々早いのでは?」

「北野天満宮へ梅を見に行くとの事だ」

「梅、で御座いますか」


春は、まだ遠い
そう諭すかのように時折身を斬るような凍てた風が吹く
かと思えばその風を戒めるかのように小春日和のような暖かな陽射しが差し込む
そんな日が続く或る日の事だった

いつものようにお城から戻られた三成様をお迎えし、屋敷内でお着替えなどを手伝っている矢先に告げられた、主である秀吉様からのお花見のお誘い
通りでいつもより三成様のご機嫌が良い訳で
あまりこういった催し事をお好みにならない三成様も、秀吉様直々のお誘いとあれば心も弾まれるのだろう、そういう少年のような純粋なところが私の心を和ませた


「それで、御日にちはいつ頃でしょう?」

「四日後だ
支度などは下の者にさせる…なまえは精々着物でも選んでおけ
秀吉様の前でも粗相のないようにな」

「それは結構で御座いますが…本当に何もせずに良いのでしょうか?
折角のお誘いですし、何か…」

「良い、余計な事に構うな
後の事は私が全て万端にしておく」

「それなら、良いのですが…」


当日はいつもより少々派手な装いで行く方が良いだろうと付け加え、着替え終えた三成様はそのまま屋敷まで持ち帰ってこられた書を取り出して机の上に広げられた
つまり三成様にとってこの話はこれで終わりだという事

何の心配をせずとも、三成様が良しなにお取り成し下さるだろうという事は疑いもなきことではあったけれど、三成様の下に嫁いで以来何かと気を払って頂いている秀吉様や半兵衛様に何か御礼を差し上げる良い機会だと思った私は、三成様のあまりの簡潔さに少々不安が残った

机の前に座られた三成様にお茶を差し上げるべく、そっと部屋から出た
御礼を差し上げる、と言っても私が出来る事など限られている
物品を差し上げようとすればお金が掛り、結局三成様に頼らねばならないし、かと言って何か花見の場を楽しませられるような芸も持ち合わせてはいない

一体どうすれば良いかしら、そう思案している内に台所へ辿りついた
私が三成様の為に自らお茶を入れに台所に来るのは日常の事なので、仕事をしていた女中達は快く場を譲ってくれる

丁度夕餉の支度の真っ最中だったようで、台所中に出汁や焼き魚の良い香りが充満していて、今日の夕餉は秋刀魚かしら、三成様もお食べになればいいけれど、などと考えていると、不意に頭の中に妙案が浮かんだ

お金を使わず、芸も要らない
少し心配はあるけれど、此れに関しては自信がある
やっと見つけた私の出来る「御礼」に心が弾む
秀吉様方は…三成様は、喜んで下さるかしら
大切な方達の喜ぶお姿を想像しながら、私は女中の一人に声を掛けた








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