砂漠の夜は何も無い
夏や秋であればまだ虫の音が響くこともあれど、冬ともなるとそこに生命が存在するのか分からなくなる程に闇と静寂が砂の上を滑るように走っていく

日本海から吹き荒ぶ冷たい風と南に聳える山から吹く激しい風が、この地を極寒へと導く為、いくらこの城が日の本の西方に在るとは言え、この地に限っては信じれない程冷える
それは、流石にこの地に慣れた城主も感じているようで、


「へっくしょい!」

「まぁ…晴久様、お風邪を召されましたか?」

「いや、少し冷えただけだ
全く…これで雪でも積もれば最悪だな」

「雪で砂が湿ってしまえば晴久様の砂潜りもおあずけですものね」

「…そんな事を言ってるんじゃない」


私が少しからかうように笑えば、晴久様はバツが悪そうに書いていた書に視線を戻した

何も無い、砂丘の冬
夜更け前にわざわざ私が晴久様のお部屋で縫い物をしているこの理由を、晴久様は分かっていらっしゃるだろうか
ふと縫い物をしている自分の手を休めてみれば、気付かぬ内に指先が凍えて動きが鈍くなっていた
心なしか爪先が赤くなっている
もう一度晴久様に視線を戻せば、少し鼻を啜りながら書き終わった様子の書に封をしていらっしゃった
やはり、そろそろ暖が必要な時期になったかしら


「晴久様、もうお休みになられますか?」

「ん?あぁ、そうだな
あとこれだけ纏めたら休む」

「では、その前に火鉢でも用意致しましょう
そのご様子ではお身体が冷え切っておられますでしょうから、寝る前に暖を取られた方が良いでしょう」


いくら晴久様がこの砂丘の寒さに慣れていらっしゃるとは言え、所詮は生身の人のお体
縫い物を横手に片付けて、火鉢はどこに片付けてあったかしらと思い出しながら腰を上げた
座り通しで痺れかけていた足を伸ばしきる直前、急に伸びてきた手によってその動きを止められてしまった


「晴久様?」

「火鉢はいい」

「ですが、お風邪を召されては、」

「暖を取るならうってつけのものがあるじゃねぇか」

「え、っ」


ぐら、中腰の状態から横に急な力を加えられて、私の身体はあっけなく引かれた手のほうへ、晴久様の胸元へと倒れこんだ
驚いて見上げれば、イタズラに笑う晴久様の顔がすぐそこにあった


「何だ、お前も冷えてるじゃねぇか」

「そ、それは当然私だって寒かったんです」

「だから俺のところに来たのか」

「そ、それは…」

「誤魔化さなくても、なまえの考えてる事は大体分かる」


確かに、此処に来たのは寒さと寂しさに耐えられなくなっての事だったけれど、まさかこうもあっさりと見破られてしまっていたなんて
恥ずかしくなって顔を隠すように晴久様の胸元に押し付けると、無防備になってしまった首筋に、生温かくて柔らかい体温が触れた


「は、晴久様っ!?」

「さすがに生肌はあったけぇな」

「お止め下さい、く…くすぐったいです…」

「いや、止められねぇな
ほら、よく言うだろ?極寒の地で一番温かいのは人肌の温もりだって、な?」


あわあわとしている間にも、晴久様は私の首筋に唇を寄せながらそのまま私に体重を掛けてくる
あ、と思った瞬間には視界に晴久様の不敵な笑みと木目の天井
おあつらえ向きに、背中には布団の感触

…さてはこのお方、計っておられたのかしら
さすが智将・毛利元就と張り合うだけあられる…ってそんな悠長な事を考えていると晴久様は私の上に覆いかぶさるように身体を密着させてきた


「やっぱり、火鉢よりなまえを選んで正解だな」

「晴久様…!」

「風邪引かねぇように、充分あったまらねぇとな」


確かに、この身に触れる晴久様の体温は何よりも温かい
きっと私の身体はその熱に反応して更に熱くなっているんだろう

どうせなら、寒いより温かい方がいい
そう思って晴久様の熱に縋るようにしがみ付いた私に、晴久様が満足そうに笑った小さな声が静寂の夜に小さく響いた


さっきまで冷たく悴んでいた指先は、すっかり熱に冒されていた








冬忍び
忍んで熱を求める戯れ



















晴久を格好良くえろっちくしたかっただけという不純極まりない動機で書きました
どうもスミマセンでした
しかも月山富田城と砂漠は何ら関係ありません
まぁ、BSRの世界だと思ってくだされ…





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