「聞いてくれなまえ!
勝つための新しい作戦を思いついた!!」

「はぁ、今度はなんでしょう」

「戦場になりそうな場所に予め無数の落とし穴を掘っておく!
どうだ!いい考えだろう!!」

「…貴方様という御方は本当に…」


呆れて物も言えないとは正にこの事である
キラキラとした少年のような笑顔で私の反応を窺うこの男性もとい広綱様は、紛れもなく私の最愛の夫であるけれど、同時に私にとって一番厄介な人物であったりもする


「馬鹿ですか、貴方は」

「何っ!?一体どこが馬鹿だと言うんだ!」

「どこもかしこもありません!
落とし穴など掘って、味方が踏んでしまわない保障が何処にあるのですか!
それに戦場になりそうな所と安易に仰いますが、領内のあちこちにそんな危険な場所を作っては民が安心して生活できないではありませんか!」

「た、確かに…」


私の剣幕に押されてか、ビクリと身体を硬直させてバツが悪そうに頭を掻く姿は、一国の主と言うよりは悪戯が露見して怒られた子どものように見える

そういう純粋でちょっと抜けているところがまた愛しくもあったりするのだけれど、それが残念ながらこの御方は紛れもなく一国の主で、しかもこの戦乱の世を生きる武将である
奇しくも広綱様はご本人の意思とは裏腹にお身体もあまり丈夫ではないし、なのに「俺は肉体派になるんだ!」と言って無茶な修行をしたりするものだから手に負えない
だから私は広綱様のことがいつもいつも心配でならない


「広綱様、以前から申し上げておりますが、もっと堅実な戦法をお考え下さい」

「堅実な、戦法…」

「そうです!
戦に霧や虎を使っていると聞いた時には私、卒倒するかと思ったんですから!」

「いい考えだと思ったんだが」

「霧なんて自軍にも害が生じるのは幼子でも考えれば分かります!
それに虎なんて連れて来られた時には…私は本当に貴方様が心配で…」

「俺の事を心配してくれたのか、なまえ」


俯いて嘗ての悪しき悩みを思い出していると、どこか浮かれた広綱様の声が聞こえて顔を上げた
そこには口端を上げてニヤニヤと厭らしい、でも嬉しそうに笑む広綱様が居て、何だか揚げ足を取られたようで癪に障った


「あ、当たり前でしょう
…私は、広綱様の妻なのですから」

「なまえは正直で可愛いな」

「なっ、い、今はその様な事を話ているのでは…!」


笑いながら私の頭を撫でる広綱様の所為で、段々恥ずかしくなってきた
キッと少し強めに睨み上げてみれど、その笑顔は止まずむしろ更に嬉しそうに深く笑んで、私の髪を梳くように指先で撫でた後にそのままその腕を宙に高々と広げられた


「よし!分かった!
お前が心配しなくていいように強くなる!
もっともっと考えて、もっともっと強くなるぞ!」

「…ご無理はされませんように」

「あぁ!
なまえが居る限り俺に敵は無い!」


うおお、と威勢よく外へ駆け出していった広綱様の背がとても逞しく見える

少しお馬鹿で、少し抜けているけれど
でも、とても立派な国主
とても立派な私の自慢の旦那様、どうか虎に捕食されませんように











貴方と私で怖いもの無し















初!宇都宮
愛されるお馬鹿としっかり者の奥様
完全なる私趣味な設定…


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