私の家に仕えるある忍が久々にこちらに帰ってきた時、彼は伊達政宗という人の事を、かなり奇抜で異国語を操る風変わりな独眼竜だと少し辟易とした顔つきで語っていた
そして又、厄介な事に私の弟の好敵手であると


「Heyなまえ!」

「あら、政宗様」

その噂の変わり者はここ最近何故か上田城によく現れる

私の弟であり彼の好敵手である幸村は躑躅ヶ崎に居る為、一見彼がここに来る意味は皆無なのではと思うが、彼曰くそうでもないらしい
その証拠に噂で聞く彼はとても派手好きだそうだが、ここに来る時はお忍びなのか決まって地味な格好をしていて、私も最初は彼がまさかあの名高き伊達政宗公だとは気付きもしなかった程だ

取り敢えず、彼の素性を知らされた頃には私はすっかり彼に馴染んでしまっていて、今では彼が此処に来る度にこっそりお茶を用意して持成している

「今日は如何様な用件でこちらに?」

「Ah、そんな固い用件なんてのはねぇが
強いて理由をつけるなら、これをお前に渡す為だな」

そう言って彼が袂に手を差し込んで取り出したのは、銀で出来た小さくて丸い輪
見たことも無いほど美しく磨かれた銀は日差しを綺麗に反射していて、人差し指と親指でそれを摘んでにやりと笑む彼は何処か楽しそうだ

「これは?」

「ringだ、指に嵌める装飾品だ」

「あぁ、指輪ですか
それにしても綺麗な銀ですね」

「そうだろ?
西洋の技術で磨かれたものらしくてな、それにここに小さな石が嵌ってるだろ?」

「あら本当に、珍しい指輪ですのね」

「これで小さな国ひとつ買えるだけの価値がある」

「えっ」


思わず大きな声が出てしまった
とてもとても綺麗だけれど、こんな小さな指輪にそれだけの価値があるなんて

そこまで考えて、はた、と先に彼が言った言葉を思い出す
私の記憶違いでなければ、彼は私にこれを渡しに来たと言わなかっただろうか

「手を…あぁ、左手に嵌めたいんだが」

「い、いけませんいけません!
そんな高価なものを、私が貰う訳にはいきません!」

「Ah?…何でだよ」

「何故って、それは当然…私は貴方様にその様な物を頂く義理が御座いません」

「義理、ねぇ…」

納得いかないと言いそうな顔で、政宗様は顔を顰めて何か考え込む様に顎に手を添えられた

思案する横顔は、改めて間近で見るととても精悍で殿方にしては美しい横顔をしておられる
私の弟も中々に綺麗な顔立ちではあると思うけれど、この方は弟とは違った美しさを持ち合わせていらっしゃるものだから、偶にこうして近くにいるとどきりと胸が高鳴る事がある

そんな邪な考えを巡らせていると、政宗様はふと顔を上げてまた悪戯に口角を上げてにんまりと笑まれた


「義理ならこれからいくらでも作れる」

「は…?」

「さっきこれは小国ひとつ買えるだけの価値があると言っただろう、だからお前はこれを受け取るのを拒んだ
だったらこれに見合う価値があるものを、俺がお前から貰えばいいんだ、you see?」

「そ、その様な事を申されましても私には何も…」

「お前が欲しい」

「え、ま、政宗さ…」

「それとも上田の姫一人貰い受けるのにこれひとつじゃ足りねぇか?」

「な、何を…」

「このringはな、西洋ではwedding ringっつって、結婚する相手の左手の薬指に嵌めさせる物らしい
…流石に、もう意味分かるよな?」

ばくばくと高鳴る心臓が煩くてまともに思考が働かない
あぁ、でももしかしなくて、もしかしなくても求婚、されているのではないでしょうか

殿方にこんな事を言われたのは初めてで、しかもその相手がまさかのあの伊達政宗公で、どうして良いのか分からず言葉も出ない私の頬に、あろうことか政宗様は手を伸ばして触れて「真っ赤だ、so cute」と言って何故かとても嬉しそうに微笑まれた

近い、近いです政宗様、と訴えようとして口を開くと、「それともなまえは俺が嫌いか?」といきなり切なげな顔で尋ねられた
そんな顔は反則です…!

「お慕い、しております」

声と勇気を振り絞ってそう告げれば、彼は私の左手を取って先の銀の指輪を薬指に通し、そのまま指にそっと口付けられた

「なまえを嫁に貰うにしては、安い買い物だったな
これからお前を貰った分の義理はきっちり返させて貰うから安心しろ」

「それは、どういう…」

「どういうもこういうもねぇ
これから先たっぷりお前を愛してやるって事だ」

You see?と言って笑う彼にまた頬が熱くなった
そんな私の頬に、旦那様はさっそくひとつ熱い愛を口付けられた













払いきれるとは思っちゃいねぇよ


































きっとこの後話を聞いた幸村は愕然、佐助は政宗に沸々と怒りを燃やしてる
そして執務放り出して婚活してた為小十郎にこっぴどく説教されてしまうんだろうなぁ
と言うかこれ幸村姉設定である必要があったのかと訊かれると答えられない、私が幸村の姉になりたかったという願望(^O^)


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