「晴久様、石垣原の方には晴久様を模したカラクリがあるそうですよ」

「角土竜の事か、お前どこでそんな事聞いてきた
と言うか俺は土竜じゃねぇ」

「この間いらした前田の風来坊さんが仰っていました」

「前田慶次か…」


城の中でも屈指の美しさを誇る庭の縁側にちょこんと腰掛けて、どこか遠くの空を眺めながらうっとりとした表情で話す女に、盛大に溜息を吐く

いつの間にあいつと喋ってやがったんだ、また俺の許可なく城を抜け出しやがったな、とじとりと睨みながら責めると、女はそんな事はなんでもないという風にけろりとした表情でこくりと頷いた、この野郎

「お前、俺の妻だって認識あるか?
ちったぁ危機感持てよ、いつ毛利が攻めてくるかも分からないってぇのに」

「心配して下さるのは嬉しいですが、私だって…晴久様が心配なんですもの」

「なまえ、お前…」

「いつか砂に潜ったっきり埋まってしまって出てこなくなるかもしれないと心配で心配で溜まらなくて」


心配なのはそこか、と言うかお前さっきから俺が砂に潜ることしか考えてねぇじゃねぇか、だから俺は土竜じゃねぇって言ってんだろうが
そう言ってやりたいが、言ったところでまたのらりくらりとかわされてしまうのは目に見えている

仕方ねぇなぁ、と呟きながらなまえの隣に腰を下ろすと、なまえは嬉しそうに笑ってそっと寄り添ってきた

思えばここ暫く豊臣の陥落以来何かと忙しくて城に戻る暇すらなかった
城に戻っても軍議や出陣の支度ばかりで、こうしてまともになまえとゆっくり言葉を交わすのは久しぶりの事だ

そこまで考えてようやく分かった
さっきから俺をからかう様な事や心配させる様な事ばかり言うのは、寂しかったからなんだろう
だがそれを直接寂しいと言うこともできず、ただ構って欲しかったってところか
なんだ、可愛いところあるじゃねぇか

そっと寄り添ってきた細い肩に腕を回して引き寄せると、素直に擦り寄ってきて自分から接近したにもかかわらずドキリと心臓が跳ねる音がした


「…近頃夢をみるのです」

「夢?」

「貴方様を探しに砂の海へ出かけて、迷う夢を」

「…」

「そこには誰も居ないのです
だから私は晴久様が砂に埋もれてしまったのではないかと、手で砂を掘って探すのです
…けれど、何も見つからなくて
砂は怖いです、何もかもを覆い隠してしまう…」

ぽつりぽつりと呟くなまえの表情は俯いていて分からないが、表情を隠す長い睫毛が小さく揺れているのが見える
あぁそうか、寂しかっただけじゃない、怖かったのか

「馬鹿だなお前は、土竜が砂に埋もれて死ぬわけねぇだろ?」

「えっ?」

驚いて俺を見上げたなまえに向かって笑いかけると、なまえはやっと冗談の意味が分かったらしく少しばつが悪そうに俺の胸元に両手を置きながら「やっぱり晴久様は土竜なのですね」と悪態を吐いてみせた

恐らくそれが精一杯の強がりなんだろうが、今の俺から見ればそんな悪態すら可愛く見えて仕方ない

「夢に迷う事なんざ俺だってある
あの広い砂漠に居りゃ尚更だ、でもななまえ、」

そっとなまえの白い頬に手を添えて上を向かせる
砂漠では得ることの出来ない絹の様な心地良い触り心地がまた心臓を跳ねさせる

「俺は何処にいようがお前を見失ったりしねぇよ
だからお前は探さなくていい、俺が迎えに行ってやるから待ってろ」

こくりと素直に頷いたのを確認してから後頭部に手を回して顔をぐっと近づけ、そのまま覆いかぶさる様に口付けを落とした

その瞬間に気付かぬ内に渇いていたのか心に潤いが染み渡る様な感覚が走る
やっぱりお前を見失うなんて出来ない、砂漠にも何処かに泉がある様に俺にもお前が必要なんだ













お前がいれば迷わない




















カッとなって30分で書きました
尼子さん大好きです


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