▼三成

「三成君、今日は何の日か知ってますか」

「イエスキリストの聖誕祭だろう」

「そう、クリスマスね」

「それがどうした」

「いやぁ…見事にその気配もムードもない部屋だなぁと思いまして」






みかんと貴方




クリスマスに彼氏の家で二人っきり
一見かなりロマンチックなシチュエーションだけど、実際はそうじゃない

私が以前「寒い!」と言って無理矢理持ち込んだ小さな炬燵に二人で入って、クリスマス特番を見ながら友達の鶴ちゃんに貰ったみかんを剥いている現状
ケーキもプレゼントも甘い空気も一切ないこの部屋は、窓の外にチラつくイルミネーションが輝く街から切り取られたかのように別世界だ

不満気な私の言葉が癪に障ったのか、三成君は少し眉間に皺を寄せて私を睨んだ


「何だ、何か文句があるのか」

「文句というか…後悔というか…せめてケーキだけでも買ってきたら良かったねぇ」


みかんも美味しいけど
ぱくりとみかんを口に放り込むと、甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がって、これはこれで幸せかなぁなんて思ってしまう

そもそも三成君にクリスマスらしい何かを期待することが間違っていたんだろう
クリスマスにサンタコスでプレゼントを用意してくれる三成君とか想像つかないし、むしろそんな事されても困る

彼女である私がもう少しロマンチストだったら何か変わってたのかも知れないけれど、あいにく私は炬燵にみかんで妥協できてしまう女だ
きっと年末もこんな感じで年が明けるんだろうな


「不満ならば長曾我部達が言っていたパーティに行ってくれば良かっただろう」

「だって三成君が絶対行かないって言うから」

「当然だ、何故関係のない宗教の祭典で馬鹿騒ぎせねばならんのだ」

「だから私もここに居るんでしょ
クリスマスに皆で馬鹿騒ぎより、炬燵にみかんでも三成君と一緒の方がいいもん」


そう、何だかんだ文句を言ってはいるけれど結局私はこれで満足だったりするのだ
寒い冬の夜に、大好きな人と小さな炬燵の暖かさを分け合って寄り添うことができるんだから、これはこれできっとアリだと思う

そう言いながらへらりと笑って見せれば、三成君はどこかバツの悪そうな顔をしながら、気を紛らわせるようにみかんに手を伸ばした


「来年はケーキ買ってこようね」

「私は食べんぞ」

「じゃあ三成君は来年もみかんでいいや」

「…」

「…ねぇ三成君」

「何だ」

「来年も一緒に居ようね」

「…あぁ」


狭い炬燵の中で長い三成君の足が私の足にぶつかる
来年はもう少し大きな炬燵を買わなきゃいけないかなぁ

私が口を開けて待っていると、そこに三成君が剥いたみかんが放り込まれる
随分間抜けなワンシーン
でも私達にとってはこの上ない大切なクリスマスのワンシーンだったりする




10.12.25