▼三成

現代学パロです











「trick or treat!」

「帰れ」


会話になってない、なってないよ三成くん

思い切って黒のフード付きマントに魔女帽子を被ってわざわざ男子寮に乗り込んできたというのに、まったくもって連れない対応の彼は、今日が何の日かちゃんと分かっているんだろうか


「三成くん、これはアレだよ
ハッピーハロウィンってやつだよ」

「そんなことはどうでもいい、貴様の下らぬ遊びに私が付き合ってやる義理などない」

「…私の彼氏なのに?」

「それとこれとは別だ」


それとこれは別って、どうしてそんな方程式が成り立つんだろう
可愛い彼女がコスプレ(と言うには些か低クオリティだけど)をして満面の笑顔で「お菓子くれないとイタズラしちゃうぞ!」なんて可愛らしいことを言ってるんだから、少しくらい付き合ってくれたっていいじゃない

少しムッとなって三成くんを恨めしげに睨み上げると、三成くんはとっても冷めた目で私を見下ろして「用がないのならさっさと帰れ、第一ここは男子寮だぞ」と言い捨てた
その男子寮に危険を冒してまで遊びにきた私の努力を少しは認めてくれたっていいのに

今にもドアを閉めそうにな三成くんになんだか私も興醒めしてしまって、三成くんがドアを閉める前に自ら背を向けた


「いいもん、三成くんが相手してくれないなら政宗くんとか家康くんの所に行ってくる」

「…待て
貴様今私が行ったことが分からなかったのか
ここは男子寮だ、貴様の居るべき場所ではない
分かったらとっとと帰れ」

「いや、遊んで帰る
三成くんは遊んでくれなくていいから、部屋で秀吉先輩の為にお勉強頑張ってて」


段々意固地になってきてる、可愛くないなって自分でも分かってる
だけどやっぱり寂しかった
さすがにノリノリで付き合ってくれるとは思ってなかったけど、少しくらい、もうちょっと優しくしてくれたっていいじゃない

背を向けたまま言ったから三成くんの表情は分からないけれど、きっと呆れてるか怒ってるかのどっちかだろう
嫌われたかな、私なにやってるんだろう


「…っ、待てと言っている!」


早く帰ろうと一歩を踏み出した瞬間、前に進むはずだった私の身体は後ろに引っ張られ、無防備になった背中は固い何かにぶつかってそのまま後ろから固く身体を拘束された

一瞬の出来事に私が困惑していると、首筋にくすぐったい感覚が走った
それが三成くんの髪だと気づいたのと同時に、あの瞬間、腕を掴まれてそのまま後ろから三成くんに抱き締められ、しかもうまい具合にドアの向こうの三成くんの部屋に連れ込まれてしまったんだとようやく理解できた



「貴様は、何も分かっていない」

「な、何もって、何を…」

「…伊達や家康のところになど行かせない」

「え…?」


また話が噛みあってない
と言うかそんな首元(しかも耳も近い)で喋るのはやめてほしい
吐息が何と言うかその、とてつもなくくすぐったい

私が身じろぐと、三成くんはそれすらも許さないと言わんばかりに拘束を強めてくる
どうしよう、何だか思ったよりヤバイ状況かもしれない


「さっき言ったことをもう一度言ってみろ」

「え?さっき言ったことって?」

「此処に来て一番最初に言ったことだ」

「trick or treat…?」


ここにきて開口一番に言った台詞をそのまま唱えてみた
一体今さらこんな事を言わせてどうするつもりなんだろうと思っていると、後ろから拘束されていた腕が解け、そのまま肩を掴まれて180°回転させられてしまった


「菓子なら机の上に眠気覚ましの薄荷が置いてある、それを持っていけ」

「えー…薄荷はお菓子じゃないよ」

「つべこべ言うな」

「だって…」

「trick or treat」

「へ?三成くん今trick or treatって言った?」

「貴様は菓子を持っているのか?
その様子ではどこにも持っていないように見えるが」

「あ…」


確かに、私はお菓子なんて持ってない
だって三成くんにtrick or treatって言ってもどうせ三成くんはお菓子なんて持ってないだろうからちょっとイタズラだけして帰ろうと思っていたのだ
だから、まさか三成くんの口からtrick or treatをいわれるなんて予想外だった


「え、と…あ!部屋に戻れば…!」

「今聞いている
持っていないのならば、この慣習にそって「イタズラ」をしなければならないな」

「え…そんな、さっきはハロウィンなんてしないって言ったクセに…!」

「したいと駄々をこねたのは貴様だろう」


心なしか三成くんが少し楽しそうだ
どうしよう、これはもしかして、もしかしなくてもピンチなんじゃないだろうか
私の頬を撫ぜる三成くんの指がそっと唇に触れて、もう何となくこの先が読めてきた


「もう二度と無闇に男子寮に入って来れぬように、思い知らせてやる」

「それイタズラと関係ないよ!」


涙目の私の訴えなど聞こえぬ振りをした三成くんは、ハロウィンのコスプレをさせるなら間違いなく絶対オオカミだと思った










10.10.31