▼元就

例えば、その声

「すっかり寒くなったねぇ」

例えば、その視線

「陽が落ちるのも早くなって…元就的には残念だよね」

例えば、その仕草

「でも冬って美味しいものがいっぱいでいいよね
お鍋に焼き芋、お餅とか…」

例えば、その体温

「クリスマスとお正月っていうイベントもあるし、何だかんだで楽しいよね冬って」

「日輪の有り難味も分かるからな」

「元就ってそればっか…」


先日出してきたばかりだという秋冬物のタートルネックに口元まで埋めて、少し恨めしげに我を見上げるその姿がまるで亀のようだと言えば、その頬はまた膨らむのだろうと安易に想像出来る

そっと寄せられた我より幾分か小さな身体から微かに伝わる体温がもどかしく感じられ、ポケットに突っ込んでいた手を出して、ぶらぶらと揺れていた小さな手を握ってまたポケットに突っ込んだ


「…冷たいぞ」

「文句言わないでよ!
って言うか珍しいね、元就から手を繋いでくれるなんて」

「嫌か」

「ううん、嬉しい」


本当に嬉しそうに我を見上げるその幸せそうな表情が、握りこんだ手の冷たさを忘れさせる


「冬になる前に手袋を買っておけ」

「えー、要らないよ
元就がこうやって握ってくれるもん」

「…阿呆が」


例えば、その笑顔
いくら冷気に包まれようとも、この女を側に置くだけで温もりを手に入れた気分になる
声が、視線が、仕草が、体温が、笑顔が、この女を構成するすべてのものが限りなく温かいのは何故であろうか
若しかすると、こういう感覚に愛情という言葉が与えられるのかもしれぬと、漠然と考えてかららしくないと頭を振った


ポケットの中のふたつの手は、さっきまで冷たかった小さな方の手もすっかり暖かくなって、その狭い布の中でひとつの体温を共有していた