▼三成


キャパオーバー
今の私を一言で言い表すとすればこの一言に限る
略さずに言うとcapacity over、つまり容量超過ということだ


「そういう訳で私はこの戦線から離脱しようと思う」

「そうか、貴様はそれ程私に斬滅されたいか」

「斬滅ってどんだけ猟奇的な言葉使うのよ
アレか、韓流映画的意味でか、あの映画は確かに面白かっぶはっ!!」

「いい加減黙れ」

私の頭にぶつけられたお菓子の缶がコロコロと床に転がる
曲がりなりにも女の子(自分で言うのもアレだけど)に向かって物を投げ付けるってどうなんですかね

ヒリヒリと痛む頭をさすりながら、向いに座る猟奇的な彼もとい石田三成を睨み付ける
恐らくこちらの視線にも気付いているだろう石田は全身から「阿呆の相手をしている暇などない」というオーラを出しながら、カリカリと音を立てて目の前の書類に文字を書き連ねていく
私はというと石田と同じ様に目の前に積み上げられた文化祭関連の書類を見上げ溜息を零して、これを明後日までに仕上げろと爽やかな笑みで言い残して帰っていった竹中先輩にささやかな呪いをかける様に書類にぐるぐると無意味な円を描いた


「おい貴様、やる気がないのか」

「無いんじゃないよ、消し飛んだの」

「同じだろう!
半兵衛様から与えられた仕事をサボるなど私が許さない」

「別に石田に許してもらわなくても、」

「私の怒りを買う程度で済めば良いな」

「…」


石田が怒ったら多分次はパイプ椅子あたりが飛んでくるんだろう
でもまぁそれはこの生徒会という名の監獄に放り込まれてから何度もあったことだから今さら怯えることじゃない
ただ、確かに石田の言うとおり、この仕事をサボればあの世にも美しい竹中先輩が世にもおぞましい罰を用意して私の前に立ちはだかるであろう事が、思わず感涙してしまいそうになる程明白に想像できた


「…でも、これはいくらなんでも無理すぎるよ」

「だからこの私がわざわざ無能でどうしようもない馬鹿な貴様の為に残って作業してやっているんだろうが
それを貴様は無碍にするつもりか」

「だって、たかだか2日の文化祭の為にこれだけの書類を使うなんておかしいよ!
第一文化祭なんて当日は生徒会役員はほぼ遊べないんだよ!?
ここぞとばかりにカップル連れで歩く羨ましい限りのリア充様達と、屋台の売り上げであわよくば美味しい思いしようとしてる奴らの為になんで私が文化祭前からこんな書類の山に苦まなきゃならないの!?
そりゃやる気も出ないでしょ!!」


半ば叫びながら捲くし立てる私に、石田は驚いて目を見開いていけれど、私の話が終ると同時に呆れを隠さず深い溜息を吐いた


「つまり貴様は文化祭が自分に何の益もないからこの仕事にもやる気が起きないというのだな」

「まぁそういう言い訳だけど、本音はただ面倒くさ…って痛い!」


だから曲がりなりにも女の子である私に物を投げるのはどうかと思う
って言うか曲がりなりにもじゃなくて普通にれっきとした女の子なんだけどね、私
政宗流に言えばレディーですから、淑女よ淑女
ぶつぶつと文句を言いながら床にしゃがみこんでおでこにクリーンヒットした消しゴムを拾い上げていると不意に目の前が暗くなった
見上げるといつの間にか石田が目の前に居て、私と同じ様に床にしゃがみこんだ


「やる気が起きないのなら、無理矢理にでも起こしてやる」

「え、どうやって」

「文化祭当日、少しでも空き時間が出来たら貴様に構ってやる」

「どうしてそうなった」

「ここぞとばかりにカップル連れで歩くのが羨ましいと言ったのは貴様だろう」


確かに言いましたけど、でもいくらなんでも超展開すぎませんか

言いかけた言葉はあっさりと奪われてしまった
この場合、奪われたのは言葉だけじゃなくってあとふたつある

私のファーストキスと乙女なハートのふたつ
どういうことか、私は文化祭でリア充デビューする事になりそうです









(石田って…本当に猟奇的だよね、まじハンター)

(何の話だ)