02
『新しい住人が入るから、櫂木荘のルールについて教えてほしいのです』
そう毎回、管理人の歩美に頼まれるのは住み込みで働いている小虎だ。櫂木荘の家事をこなす彼は、毎回新しい住人が入るたび、櫂木荘のルールについて教える。
細く言えば、ゴミだしの日や共同スペースの使い方……それにここの特殊性やなんらかんや……守らなければいけないことなど。
小虎は住み始めて長くはないが、この櫂木荘に入居したのは早い方だ。
新しい住人はどんな人だろうか……と歩美から一方的に頼まれてまったく聞いていなかった小虎は急いでリビングに向かう。
リビングの扉は開いていて、小虎は待たせた後ろめたさから早く挨拶したい焦る気持ちを抑え「遅れてすみません」と謝ってリビングに入った。

小虎は入った瞬間、ここが櫂木荘だと忘れそうになった。

リビングの共同スペースのソファには長身プラチナブランドの青年と、黒髪ロングの美少女がのんびりとお茶を飲んでいた。
青年と美少女と言ったが……次元が違う恐ろしく顔の整った二人組に思わず固まる。
――ここはどこの芸能人の控え室ですか、と言いたくなった。
いや、芸能人でも中々いないような容姿だ。
ここまで目が「惹かれる」存在が珍しい。

「あっ、案内をしてくださる……山月さんですか?」

呆然と二人を見ていた小虎がはっと我に返る。
小虎に声をかけたのは黒髪ロングの、といってもさっきの黒髪ロングの美少女とは違ってどちらかと言えばどこにでもいそうな少女だった。細身で、ちょっと華奢で化粧っ気のない……クラスに一人はいるなーくらいの容姿。
先の二人を見たせいか、余計地味に感じてしまう。
小虎はそれを飲み込んで「そうです……新しい入居者さんですか?」と聞く。

「新しく入居してきた、白井由季と言います。高1です。よ、よろしくお願いします!」

緊張しているのか、少女――由季はわたわたと挨拶する。

「俺は山月小虎。よろしく、白井」
「はい!」

あ、素直でいい子だな……と小虎は思う。キャラが濃い女子ばかりだから、由季のような初々しい反応に感動を覚えた。
すると、青年と美少女も立ち上がって小虎に挨拶する。

「挨拶が遅れてすまない。私は由季と同居する者の一人、赤城月(あかぎユエ)だ」
「初めまして、僕は黒衣澪(くろえれい)。よろしく」
「よ、よろしく……」

これまた立つと美形ならではのオーラを感じる。青年……赤城は小虎より背が高く、大人びている。間近で見てあらためて思う。どこかの外国の血でも入っているのだろうか……顔の造形が日本人離れしていることに気づく。

「すごい人が入ってきたわね」
「そうだな……って高坂!?」

思わず頷いた声は、いつもボケをかましてくれる千百合だった。神出鬼没の存在にいつも通りつっこむ。マイペースに千百合は「高坂千百合です、いずれ結婚するので山月千百合でもいいです」と一本調子で言う。それに焦ったのは小虎で「いずれっていつだよ!予定もねえし、よくねえよ!?」と怒鳴る。
そして、千百合の自己紹介に思わぬ反応したのは、月と澪だ。

「なるほど……由季、自己紹介に赤城由季です、と使っても構わないぞ」
「な、何言ってるの、月!」
「黒衣でもいいよ。語呂がいいし」
「澪さんまで! まだ結婚……なんて考えられません!」

由季は「結婚」に反応して顔を真っ赤にする。月は初々しい反応にわずかに唇をつり上げる。

「日本では16で結婚出来るのだろう?」
「そ、そうだけど……! それとこれとは違うの!」

彼女は月に「からかわないで!」と言ってむくれるが「私はいつでも本気だが」としれっと言われてますます頬を膨らませた。
そんなあまーい二人のやりとりを見て「山月くん、この二人に唯ちゃんに近づけてはいけないわね」と千百合は真面目に言った。

「ああ……それはちゃんと言わなきゃな」
「ああ、鷹野唯さんのことなら聞いたよ。でも君たちも無意識にいちゃついてるみたいだし、人のこと言えないじゃないかな」

澪がニコニコと笑いながら言う。小虎はどこか含むような言い方に面をくらい「えっと……聞いたなら良かったけど」と無難な言葉を返す。

「それと、生物学上どっちでも良いんだけど、僕は男だよ」
「ええ!?」

どう見ても美少女にしか見えなかった小虎は驚く。千百合も滅多に動かない表情筋が今回ばかりは働き、驚きを見せる。

「君の友達みたいな趣味はないけど、仲良く出来そうだ」
「え……?」
「なんでもないよ」

澪は絶えず笑みを浮かべながらのらりくらりと不思議なことを言う。それに首を傾げるが、月のからかいに困った由季が「あっ、あの! ここの注意事項を教えてくださいっ」と小虎に話題を振ったことにより、寸断される。

「あ、悪い……色々脱線したな」
「い、いえ……!」

由季は月が邪魔しないことにほっとする。月はそんな様子の由季も可愛い、と言わんばかりに見ている。
付き合ってんのか……? と疑問を抱きつつ、三人に座るように言い「じゃあ、ゴミの出し方から……」と説明を始めた。


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