09
小田は翔と壁の間にいる俺を引っ張り、自分の元へ引き寄せた。翔は固まったままだ。余程、小田にこの現場を見られたことがショックらしい。
小田は、俺に「大丈夫?」と聞き、俺が返事を返すとほっと息をついた。
そして、彼女は翔に向き合う。俺は、きもちわるさに堪えかねて壁に寄りかかった。
「翔、わたしがハッキリしなかったのも悪かった。
ごめん。付き合えない。色んな意味でね。わたしは……また誰かに嫌われるのがイヤだった……でも、坂城が傷つく方がイヤかな。だってまだ好きだから」
「え?」
ちょ、小田!?
驚いて彼女を見ると「うん、まだ好きだよ」と笑って言った。
「最低野郎だぞ、俺は」
「どこが? ちょーいい男だよ」
パチッとウィンク付きで言われる。
……盛大な告白受けてないか、俺?
翔は、小田にすがりつくように言う。
「待てよ真姫!! なんでこんな……」
「坂城を知らない翔に、坂城をこんなとか言われたくない。もう言い寄らないで。みんなにもちゃんと話すから」
キッパリとそう言った小田の顔はスッキリと清々しかった。対照的に翔の顔は青ざめる。
「じゃあね、翔」
それが最後の言葉だった。
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